「着陸できるか落ちるか分からなかった」「遺言状を書こうかと思った」。那覇発羽田行きJAL904便の乗客らは、上空で爆発音と火柱を確認した。突然の機体の不具合と、断続的に続く揺れに命の危険を感じ、不安を抱いたまま機内で過ごした。飛行中に左側エンジンの損傷が確認され、国は重大インシデントに認定した。けが人はいなかったが、乗客の表情はこわばっていた。
4日午前11時45分に那覇空港を離陸したJAL904便は、洋上約5千メートルを飛行中に左翼エンジンから「ドーン」という爆発音が響き、火が吹き出た。機体は激しく揺れ、ガタガタと異音が鳴り響いた。トラブル発生後、再び那覇空港に着陸するまでの時間は約30分。乗員乗客189人は恐怖に包まれた。
機内にいた那覇市在住の男子学生(25)は午前11時50分ごろ、左翼エンジンから火炎放射のように火が吹き出る様子を見た。衝撃的な光景に「死ぬかと思った」という。
ウェブクリエイターの「なるかわくろ」さん(39)=読谷村=は、左側のエンジンのカバーがめくれて浮き上がっているのに気付いた。エンジンが小刻みに揺れ、その振動が機体全体に伝わってくるように感じた。「飛行機はエンジン一つでも飛ぶ」と聞いたことを思い出し「大丈夫」と自分に言い聞かせた。
揺れが続く中、客室乗務員から「ただいま大きく振動しております。詳しいことが分かり次第、お伝えします」とアナウンスがあった。乗務員が左側の窓を確認した後、機長から「エンジンが損傷しているようだが、翼に異常はない。那覇に戻ることに決めた」と説明があった。飲食店経営の男性(48)=宜野湾市=は「うろたえているというのは大げさだが、余裕しゃくしゃくという感じではなかった」と、機長の動揺を感じ取った。隣に座っている人は真っ青になり、目をつぶって震えていた。
一部の座席の上部からは、緊急時の酸素マスクが飛び出ていた。明らかな異常事態だったが、乗客らは「機内がパニックになることはなかった」と口をそろえる。自営業の今江誠治さん(39)=神奈川県=は「揺れてはいたが、乱気流に入った時ほどではなかった。JALのみなさんが冷静に対応していたので、パニックにならずにすんだのではないか」と振り返る。
904便が那覇空港に着陸したのは午後0時23分。福島県の男性(67)は機体から降りてバスで乗り込む際に、カバーがめくれて内部がむき出しになったエンジンを見た。「こんな体験は一生に一度あるかないか。命があって良かった」と胸をなで下ろした。