何とも悠長な…玉城知事の「カマラさんラブコール」と女性登用の落差<沖縄発>


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written by 座波 幸代

 

 「カマラ・ハリスさんを招聘して各国の女性リーダー的方々のサミットを沖縄で開催したい」

 2020年11月8日午前3時すぎ、沖縄県の玉城デニー知事は未明まで米大統領選の行方を注視していたようだ。カマラ・ハリス上院議員が米国初の女性副大統領になるというCNNの記事を、自身のツイッターで熱いメッセージと共にリツイートした。知事の興奮が伝わった。

NYで発信「女性サミットを」

 玉城知事のツイートを見つけたとき、「やっぱり。デニー知事らしい」と感じ、ちょうど2年前の彼の発言を思い出した。18年11月12日、玉城知事は10月の就任後すぐに訪米要請活動を展開し、ニューヨークの国連本部を訪れていた。日本人として初めて、国連事務総長、副事務総長に次ぐ事務次長に就任した中満泉氏(軍縮担当)と面談した後、報道陣の取材に応じた。

 世界の軍縮に向けて活躍する日本人女性の中満氏に対し、玉城知事は「沖縄を平和のバッファーゾーンにしたい。緩衝地帯にしたい。そのためには、沖縄でぜひ、アジアのトップレディー、ファーストレディーの皆さんに集まっていただき、女性のサミットを開催したいと思っている。そのことについても、ぜひ国連の力を貸して下さいという話をした」と語った。日も暮れて辺りは暗くなり、耳の奥がツーンと痛くなる寒さに包まれた冬のニューヨークで、玉城知事は目を輝かせて語った。

中満泉国連事務次長との面談後、記者団の取材の応える玉城デニー知事=2018年11月12日夕、米ニューヨークの国連本部前

 歴代の沖縄県知事は、在沖米軍基地問題の解決に向け、米首都ワシントンD.C.を訪れるのが恒例になっている。知事自身が米政府の関係者や連邦議員らに会い、沖縄の声を直接伝え、米政府が日本政府と共に沖縄の過重な基地負担の軽減に取り組むよう訴えるのが目的だ。だが、ワシントンの「壁」は非常に厚い。

ワシントン政治の「壁」に挑む

 17年4月から約2年間、ワシントン特派員として米国防総省や国務省、シンクタンクなどの取材に当たっていたが、ひどく気がめいることも多かった。強大な権力が集中し、官僚主義に支えられた政策決定コミュニティーとして世界に影響を与える街がワシントンだ。当時、トランプ政権のアジア関連の関心事は中国と北朝鮮。日本の存在感は薄れ、米国の政策に戦後ずっと翻弄され続けている沖縄にはなかなか焦点が当たらない。この街で「通じる言葉・戦略」で訴えない限り、「沖縄の基地問題は日本の国内問題」と距離を置こうとする米政府を「当事者」として引き戻し、日本政府との交渉に当たらせるのは難しいと痛感した。

 そんな中、名護市辺野古への新基地建設阻止を訴える玉城知事が就任から1カ月の早さで訪米要請行動に臨んだ。最初の訪問地に選んだのは、文化や経済、多様性の街ニューヨーク。ニューヨーク大での講演や中満国連事務次長との面談のほか、米独立系メディアの報道番組「デモクラシー・ナウ」に出演し、看板司会者でありジャーナリストのエイミー・グッドマン氏の取材に応じるなど、これまでの県政にない新しい日程を精力的にこなした。

会場の拍手に笑顔で応える玉城デニー知事。島袋まりあさん(左)が講演会開催を支えた=2018年11月11日、米ニューヨーク大

 講演会開催を支えたのは玉城知事と同じく、米国人の父、沖縄人の母を持つ県系2世の島袋まりあニューヨーク大准教授(当時)だった。講演の企画、会場の手配をはじめ、米国の聴衆に共通理解が生まれやすいように内容も検討し、当日の進行役も務めた。SNSなどを通じて米国内で沖縄の基地問題を訴える草の根活動を続ける大山紀子さん=今帰仁村出身、ニュージャージー州在=ら、米在住のパワフルなウチナー女性たちが知事の訪問を支えた。

 一方で、訪米要請行動に同行した県職員を見て正直、がっかりした。多様性の街からちょっと浮いた感じの中年男性たち。当地の勝手が分からないのは仕方ないとはいえ、県職員の通訳は心もとなく、知事のメッセージを誤訳していないか冷や冷やする場面も多かった。これでは硬直化した米政府の対応に「変化」は起こせない。玉城知事に「今度はぜひ女性の職員も同行を」「米国の事情に詳しいプロの通訳を」と伝えた記憶がある。

「また考えたい」でいいのか

 ことし4月から政治部で玉城県政を直接取材し、同様な思いを抱えたままでいる。玉城知事は「女性が輝く社会づくり」「女性リーダーの育成」を公約に掲げ、県庁内の子ども生活福祉部に「女性力・平和推進課」を設けた。知事部局の課長級以上の管理職への女性登用率は20年度が14.7%。就任前の18年度12.1%に比べ、2.6ポイント増えたものの、「第5次県男女共同参画計画」で県の管理職の女性割合を15%とする目標値には達していない。そもそもの目標値も低く感じる。今年4月時点の県の審議会などでの女性委員の登用率は29.6%で、こちらも目標値の40%とは開きがあるままだ。

県議会一般質問で答弁調整をする沖縄県執行部。男性幹部がずらりと並ぶ=12月7日、県議会

 10月の知事就任2年の記者会見で、副知事を含め政策決定の場に女性を登用する考えや残りの2年に向けそれを実現していくようなプランがあるか、質問した。玉城知事の答えはこうだった。「下からしっかり上がって来ていただいて、その方々が自分の持てる力を発揮して、資質を高めていきながら、やがて責任あるポストで腕を振るっていただく。そういうことを思い描きながらみんなで沖縄らしいその多様性と寛容性、包摂性のある県庁の姿も作っていきたいと思っている。例えば副知事への女性登用についてもさまざまな方々から意見があると思うので、それもお聞きしながらこれから必要なときにはまた考えていきたいと思う」。何とも悠長な、と感じた。

 ワシントン駐在時の米国では、女性蔑視や同性愛への偏見・嫌悪、人種差別的な発言を繰り返してきたトランプ政権に怒り、抗議の声を挙げ続けてきた人々が「2020」を合言葉に、大統領選に向けて政治を変えようという大きなうねりが広がっていた。トランプ氏を支える白人至上主義に対して、Women’s March(ウィメンズ・マーチ)、Black Lives Matter(ブラック・ライブス・マター)をはじめ、多くのデモが行われ、女性やマイノリティーの人権を訴え、投票が呼び掛けられた。その声と行動が、民主党のジョー・バイデン元副大統領の大統領選勝利を確実にさせた。初の女性、初の黒人、初の南アジア系副大統領になるハリス次期副大統領はもちろん、次期政権のホワイトハウス広報部門の主要ポストは全員女性で、複数の黒人やヒスパニック系も含まれる。白人男性の高官が多かったトランプ政権が人種差別的な「分断」を増長させてきた政治から、「多様性」「連携」への転換は鮮明だ。

バイデン政権に「通じる言葉」を

 玉城知事は、先の就任2年の会見で、残り2年の任期で、どんな沖縄を目指すのかと問われ、「男女共同参画や若い人の政治参画など一人一人が尊重され、活躍できる場がつくられることが大事」と答えた。ぜひ実現してほしいし、私もそんな沖縄をつくっていく1人になりたいと思う。「各国の女性リーダー的方々のサミット」もいいが(実際、ハリス氏をはじめ世界の女性リーダーたちが沖縄に集まると考えると私自身も大興奮だが)、まずは自分たちの足元から政策決定の場に女性をはじめ多様性のある人員を登用してほしい。政治をはじめ、経済や教育などさまざまな分野、組織でその取り組みが必要だ。われわれメディアも然り、だ。

多くの人が集まり、トランプ政権の女性蔑視や人種差別的な発言などに抗議の声を挙げるウィメンズマーチの様子=2018年1月20日、米ワシントンD.C.

 来年1月、バイデン新政権が発足する。歴代知事の訪米要請に「政治の扉」を閉ざしてきたワシントンの壁は厚い。だが、「多様性」「誰一人取り残さない社会」を掲げる玉城知事だからこそ、しっかりと実効性のある方策を導けば、新たな米政権に「通じる言葉・戦略」を展開できるのではないか。そんな期待も抱いている。


座波 幸代(ざは・ゆきよ) 政治部記者 1975年、那覇市首里生まれ。2001年入社。政経部経済担当で観光やIT企業を取材したり、社会部で貧困や雇用問題を取材したり、NIE推進室で小中学生新聞「りゅうPON!」を作ったり。琉球新報Style編集部、ワシントン特派員の経験で「アメリカから見た! 沖縄ZAHAHAレポート」も書いてました。カレーとビールと音楽が好きです。


沖縄発・記者コラム 取材で出会った人との忘れられない体験、記事にならなかった出来事、今だから話せる裏話やニュースの深層……。沖縄に生き、沖縄の肉声に迫る記者たちがじっくりと書くコラム。日々のニュースでは伝えきれない「時代の手触り」を発信します。