上里 あやめ 
大阪・花園ラグビー場を舞台に数々の感動、名勝負、名選手を生み出してきた高校ラガーマンの晴れ舞台、全国高校ラグビーフットボール大会が記念すべき第100回大会を迎える。初の県代表として石川が花園の地を踏んでから40年の節目ともなる大会の開幕を前に県勢の花園での躍動を振り返る。
「絶対勝てるぞ！ 今までの力を出し切ってこい」。1980年12月27日、初の沖縄代表として出場した石川フィフティーンの顔は自信に満ちあふれていた。60回の記念大会で、スタンドは超満員。行進曲のファンファーレと観客の大声援に迎え入れられ、稲福忠一主将を先頭に華やかな黄色いジャージーを身につけた石川の選手が堂々と花園の地に立った。
例年は県予選の後の南九州予選を勝ち抜いて初めて全国への切符を手にできた。ただ、80年は第60回記念大会で、各都道府県優勝校に出場枠が与えられた。各県1校となるのは82年からのことである。
石川は、80年の県高校総体や新人大会で黒星を喫していた因縁の相手・宜野座に、県予選で劇的な逆転勝利を遂げ、晴れ舞台に立つこととなった。ナンバー8を務めた仲嶺伸吾は初戦が近づくにつれ「チームが一つにまとまってきていたのを感じた」と振り返る。
石川FWの平均体重は約65キロと出場53校中、最軽量。初戦の佐野（栃木）とはFW平均体重差が8キロ以上あり、どう考えても「格上の相手だった」とSO小谷良智は振り返る。だが、安座間良勝監督には想定内。県予選前からFW強化を課題としていた。手作りのスクラムマシンで、顔が膝に付くように組む低いスクラムを鍛え上げた。
そして花園のフィールド。初の全国ということもあってか、慣れない寒さからか、キックオフの石川の動きは硬い。開始直後にペナルティーキックで先制を許すが、そこから粘りを発揮する。10分すぎ、敵陣ゴール前でもらったペナルティーからモールで押し込み、逆転トライに成功する。「FWは互角の戦い」と仲嶺。低いスクラムは押されない。特訓が奏功し、手応えを感じていた。一方、国体も経験している佐野に2トライを奪われ4―11で前半を折り返した。
「絶対勝てるぞ！ 燃え尽きるまで全力で戦おう」。ハーフタイム、安座間監督の声が響く。FWの奮闘もあり「緊張もほぐれ、誰も勝利をあきらめていなかった」（仲嶺）。後半は石川FWが勢いを取り戻し終始攻める。前半の失点から一転、徹底した防御で無失点に抑えるとペナルティーゴールで3点を返す。
だが、無情にもノーサイド。7―11、1トライ差の惜敗だった。「後半30分はあっという間。花園でもっとプレーがしたい、あと少しあれば勝てた、という思いだった」（小谷）。初陣を勝利で飾ることはできなかったが、メンバーの表情は晴れやか。敗れた悲壮感より「沖縄代表を背負い初出場した花園で、恥ずかしくないプレーができた」と奮闘したFWリーダーの仲嶺は笑顔を浮かべる。体格、FWの体重差で格上の相手に全力で挑み、善戦できたことが何よりうれしかった。稲福主将も「全国に通用することが証明できた一戦だった」と皆が誇らしげだったという。
県勢初の花園での一戦から40年。ことし沖縄代表として出場する名護の初戦は40年前と同じ栃木代表の国学院栃木だ。仲嶺は「不思議な運命だね」と重ね合わせ、沖縄のラグビーが花園を席巻する日を思い浮かべている。（敬称略）
（上江洲真梨子）
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沖縄のラグビー 60年代、琉大から始まる
ラグビーが沖縄に持ち込まれたのは1960年代。琉球大での講義に招かれた北海道大の工藤規雄教授が学生らに指導したことが始まりだったという。思うように転がらない楕円（だえん）球。後ろにしかパスできないルールの妙に学生たちも魅了された。琉大の授業の一環として指導されたが、61年には琉大学生とOBで初の公式戦が行われた。
県勢の石川が初めて全国大会に出場した第60回大会（80年度）決勝は、後に代表監督も務めたSOの平尾誠二を擁する京都・伏見工高が、第1シードの大工大高（当時）とロスタイムまでもつれる大接戦の末、初優勝を遂げるドラマもあった。
2度目の全国出場で、全国を制した伏見工をモデルにしたテレビドラマ「スクール☆ウォーズ」が1984年に放送され、人気が高まった。
