EC売り上げは200倍 コロナ禍で強化したオリオンビールのデジタルマーケティング【WEB限定】


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 オリオンビール(沖縄県豊見城市、早瀬京鋳社長)が10月に発売した「WATTA(ワッタ)エンダーオレンジ」、12月に出した「WATTAいちごスパークリング」は2商品続けて発売直後に出荷調整をかけるほど売れた。これにはSNSを効果的に使ってコアなファンを作ったデジタル戦略の成功があった。また7月にリニューアルしたECサイトは、リニューアル前と比較すると売り上げが200倍に上るなど驚異的な伸びを見せている。商品展開と同時に2020年のオリオンビールが力を入れたデジタルマーケティングに迫る。(玉城江梨子)

■Twitter運用の目的は商品PRではない

 オリオンビールの公式Twitterのフォロワーは12月27日現在、8万6千人を超えている。発信を強化しはじめた4月は5千人だったのが、8カ月で17倍に増えた。

 以前は商品やイベント、キャンペーンなどのPRツールとして使っていたが、今は沖縄の人に沖縄のことをもっと知ってもらったり、県外の人に沖縄のいいところをアピールすることで、ファンを増やしていくという目的で運用。新型コロナで沖縄に旅行したくてもできないという人が増えたこともあり、旅行に行った気分になる景色を投稿したり、フォロワーの投稿を募集するなどして、商品PR以外のコミュニケーションを活発化した。

 デジタルマーケティングの責任者、上符裕一マーケティングコミュニケーション/EC部長は「こちらからの一方的な情報発信ではなく、オリオンファン、沖縄ファンがオリオンビールについて投稿してくれることを目指した」と明かす。

■消費者の声を見える化

 消費者のオリオンビールに関する投稿のチェックも欠かさない。リツイートするなどしてコミュニケーションを取るほか、生の声を拾い集めて分析しマーケティングに役立てる「ソーシャルリスニング」を徹底し、商品開発にフィードバックしている。「消費者の声を見える化したのがSNS。『おいしい!』『次はこんなのを作ってほしい』という声は開発者のモチベーションにつながり、いいスパイラルを生んでいる」と手応えを感じている。

 2020年は新型コロナウイルスの影響で飲食店が休業や時短営業を余儀なくされ、ビール業界は売り上げが落ち込んだ1年でもある。オリオンビールも例外ではない。観光客の減少はそのまま居酒屋などでオリオンビールを飲む人の減少につながった。また、お客さんとオリオンビールの直接の接点となるビアフェストなどのイベントも全て中止となった。

第1回目「わったー宅飲み配信(仮)」=4月10日

 そこでSNS発信と同時に強化したのがオンライン配信でのコミュニケーション。と言ってもオリオンビールそのものの商品紹介ではない。お笑い芸人とコラボした「わったー宅飲み配信」、スペースシャワーTVとコラボした音楽&トークの配信番組というようにビールと一緒に楽しんでもらえるコンテンツの提供だった。また、グルメサイト「ちゅらグルメ」とは対象店でテークアウトすると「謎ビール」がもらえるという新商品のサンプリングを展開した。「オリオンビールを飲むシーンを提案することが必要」と考え展開した施策は的中。配信後はオリオンビールを飲んでいるというSNS投稿が増加した。

■変えた経営の優先順位

 コロナ禍で経営の優先順位を変えたオリオンビール。その一つが7月のECサイトのリニューアルだ。もともと「沖縄旅行で飲んだオリオンビールを沖縄以外でも飲みたい」というニーズがあり、サイトリニューアルが予定されていたのを、コロナで「沖縄に行けないが、オリオンビールを飲みたい」という需要が増大したことを受け、前倒しした。今年は新商品が次々に出たこともあり、リニューアル後の売り上げは右肩上がりで、リニューアル前の200倍に上っている。

 コロナ禍で一気に存在感が大きくなったデジタル分野。コロナ後も県外、海外にオリオンビールを発信する強力なツールとなるとする。上符部長は「これまで私たちは沖縄県内にどう届けるかを中心に考えてきたが、今後は全国にどう届けるかがポイントになってくる」と話す。石井芳典R&D部長も「沖縄の素材を使った高付加価値の商品はもっと県外に出せる」と強調した。