「極超音速滑空兵器」対処に向け研究へ 日本政府、中ロの開発進展を警戒


社会
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 政府は、マッハ5以上の速度で飛行してレーダー網をくぐり抜ける「極超音速滑空兵器」への対処策取りまとめに向け、年明けにも本格的な研究に着手する。中国やロシアの開発進展を警戒し、日米協力による抑止力向上を目指す。具体的には、人工衛星を使ったミサイル探知の新手法を検討。米国との手法の共有も視野に入れ、米側の小型人工衛星群「コンステレーション」計画に参加する意向だ。複数の政府関係者が30日、明らかにした。

 ただ、戦いの局面を変える「ゲームチェンジャー」と呼ばれる極超音速ミサイルは「探知できても迎撃は米軍の最新ミサイルでも困難」なのが実情だ。政府は、日本独自の極超音速巡航ミサイル開発も来年度から加速させて抑止力向上を図る。

 米側のコンステレーション計画は、千基以上の小型衛星を打ち上げて通信網をつくる構想。日本の新手法は「リム観測」と呼ばれる。真上から地表を見下ろす通常の観測方法とは異なり、迎撃対象となるミサイルに横方向から衛星のレンズを向けて視野を広げるのが特徴だ。直上観測と比べて少ない基数での探知・追尾が可能になるとされる。

 防衛省は来年1月中にも技術的課題やコストを精査するため調査を民間企業に委託する。既に2021年度予算案に「コンステレーション」計画の調査研究費として1億7千万円を計上している。新たな観測手法の研究にも予算を割り当てて、実現可能性を追究する。

 日本独自の極超音速巡航ミサイル開発は、21年度予算案に90億円を盛り込んだ。高速の空気流を燃料燃焼に生かす巡航ミサイルの基幹部品「スクラムジェットエンジン」の実証実験を予定する。


【用語】極超音速兵器

 マッハ5以上の超音速で飛行し、攻撃目標を破壊する兵器。低空を飛ぶため、水平線が障害となりレーダーによる探知も難しい。核兵器に代わり、戦いの在り方を一変させる可能性がある次世代兵器と位置付けられている。中国軍は今年10月、極超音速滑空兵器を搭載する新型弾道ミサイル「東風17」の配備を始めたとされる。ロシア軍も同月、最新型の極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」発射実験を初めて行い、成功した。開発で遅れる米国は危機感を強めている。