<シネマFOCUS>「アーニャは、きっと来る」ユダヤ人を救う少年の物語 人々の希望の象徴


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 第二次世界大戦のさなか、市井の人々に助けられたユダヤ人の物語は至る所に存在する。“至る所に”と私たちが知る事ができるのは、名もなきヒーローたちにまつわるたくさんの映画が作られているからでもある。市井の人々が、命の危険を冒しながらユダヤ人を逃がそうとする尊い行いはどこから来るのか。誰もが同じ人間なのだという疑いようのない事実がそこにあるからだ。

 映画の舞台は1942年。南フランスの小さな村。少年ジョーは、森に隠れて暮らすユダヤ人の男と知り合い、幼き子供たちのスペインへの逃亡を手助けするようになる。ジョーはことさらに勇敢でも豪胆でもない。ただただ、命が命として扱われない事への憤りがあるだけだ。

 彼らが暮らすピレネー山脈のふもとは息をのむほど美しい。その村で、醜い人間のエゴに静かに対抗するジョーたちの息遣いが胸に迫る。アーニャはユダヤ人の男の離れ離れになった娘。“きっと来る”と信じた人々の希望の象徴だ。監督はベン・クックソン。
 (スターシアターズ・榮慶子)