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シャンプー1カ月禁止?注射器で母乳…台湾の出産事情、迷信と「徹底管理」<沖縄発>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

written by 呉俐君

 「私を殴って死なせ」。一昨年、台湾の病院で出産した後、同じ部屋に入居していた女性が同伴の夫にこう泣き叫んだ。その原因は、看護士による母乳の出し方の指導だった。

 昨年、母になった。念願の第1子が生まれ、両親を含めみんな大喜びだった。初産の不安を解消しようと、実家がある台湾で子どもを迎えることにした。

私の身体の「主権」は?

注射器でミルクを与える

 近年、台湾では母乳保育を推奨しており、産院によって徹底的に指導するところもある。私が通っていた病院では出産前、母乳育児に関する冊子を妊婦に配布し、健診のたびに看護士が必ず冊子の内容を読み上げる。出産後、看護師が自ら女性の乳房をマッサージするなど、母乳の出し方まで細かく指導する。さらに、赤ちゃんに早い段階で母乳を慣れさせるため、院内でほ乳瓶の使用も禁じられた。代わりに私たちは注射器やコップでミルクを子どもに与えざるを得なかった。

 正直なところ、入院中とても嫌な気持ちになった。私の身体は私に主権がないほど「徹底管理」された。当時、私の隣にいた女性の悲鳴もまさに徹底管理に対する抵抗であっただろうと、今でも自問自答する。

高いけど人気、手厚いケア

 幸い、出産してから3日間で退院し、事前に予約していた産後ケア施設の「月子中心(ゆえずぞんしん)」に移り住んだ。

 台湾では、産後の1カ月間を「月子(ゆえず)」と呼び、期間中女性は外出せず、毎日チキンスープなど栄養分たっぷりの汁物をたくさん取る習慣がある。

 妊婦に対する禁忌事項も多く、よく両親とけんかをした。例えば、妊婦がひも付きの服を着ると、生まれてくる子どもの体にひも状のあざができるとか、科学的根拠がない迷信ばかりだ。

 体を冷やさないようにと、髪を洗うことが一番目の禁忌事項となる。私も母に「お願いだから、髪を洗わないでちょうだい」とたびたび注意された。

 1カ月間、シャンプーしないでどうなるかと考えながら、3日間で諦めた。この話を台湾の同級生にすると、「私は2週間も我慢して髪を洗わなかったよ」と言われ、逆に驚いた。同年代の女性までこのような迷信に影響されるとは思わなかった。

お返しのケーキ、また母とけんか…

 産後ケア施設の「月子中心」は近年、若者に人気を集めている。施設内はホテルのような造りで、24時間赤ちゃんの面倒を見るベビールームも併設する。看護士も常駐し、入居者の体調をしっかり管理する。さらに、栄養士が監修した食事の提供もあり、産後ほとんど何もせずゆっくりと体の回復に向き合えた。

産後ケア施設の部屋

 しかし、「月子中心」は人気とはいえ、1日の費用の相場は平均2万円を超える。健康保険は適用できず、全て実費だ。それでも、予約が取りにくく、私も出産予定日から半年前に予約を入れようとしたが、希望の部屋タイプがすでに埋まっていると言われた。

 「月子」が終わったら、今度出産祝いのお返しに悩む。台湾では赤ちゃんの性別によってお返しの内容も違う。女の子ならケーキ、男の子ならケーキに加えて煮込みご飯の「油飯(ようふぁん)」と赤い卵をお返しとして用意する。私の場合は、男の子が生まれたので、ケーキと油飯、赤い卵の3点セットだったが、経費節減でケーキだけにした。すると、台湾の風習に従っていないことでまた母とけんかした。

 台湾と日本の出産文化は違う。日本に住みながら、台湾で出産した私にはより深い体験を語ることができる。両地の違いから、女性たちのよりよい生活につながる知恵が得られれば、と考える。これから母の目線から記者活動し、日本社会に必要なことを追求して発信していく。


呉俐君(う・りじゅん) 1983年生まれ、台湾・高雄市出身。2012年に琉球大学で社会学博士学位を取得し、同年入社。主に経済部で取材しており、台湾関係の取材や事業連絡なども担当。17年9月に社内留学制度を活用し、人生2回目の留学で米オレゴン州へ英語を学んできた。留学中、「リジュン記者のポートランド便り」も書いた。会社を離れると、なるべく日本語を使わない環境にいたい。米公共ラジオ局の番組を聴くこと、おいしい飲茶を発見・食べることが趣味。


沖縄発・記者コラム 取材で出会った人との忘れられない体験、記事にならなかった出来事、今だから話せる裏話やニュースの深層……。沖縄に生き、沖縄の肉声に迫る記者たちがじっくりと書くコラム。日々のニュースでは伝えきれない「時代の手触り」を発信します。