「上滑りの典型だ」 多選批判交わせず敗戦 自公・下地陣営<市政刷新の内幕 宮古島市長選>(1)


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written by 佐野真慈、吉田健一

 「この場に県内衆院4選挙区の自民党支部長、さらに公明党、下地幹郎氏までそろった」。10日の宮古島市長選告示日。下地敏彦氏の出陣式に登壇した西銘恒三郎衆院議員=沖縄4区=は誇らしげに語った。

西銘恒三郎氏(左端)や国場幸之助氏(右端)と共に下地敏彦氏(左から2人目)の応援に駆け付けた自民党の小野寺五典組織運動本部長=6日、宮古島市平良

 座喜味一幸氏より約2カ月早く出馬表明した下地氏は政府与党の自民、公明に加えて建設業を中心に地元経済界を押さえ、盤石な組織態勢を目指した。22人の市議のうち18人が下地氏支援に回り、事務所の壁は業界や職域団体の推薦状で埋め尽くされた。「負けるはずがない選挙」(同幹部)だったが、ふたを開けると約3千票差をつけられた。

 下地陣営は集票部隊として威力を発揮してきた建設業者を中心に従来の組織戦術で臨んだ。4選を目指す下地氏には出馬表明直後から保守内からも多選を批判する声が渦巻いていた。そのため「政府との強いパイプ」と「3期12年の実績」を前面に出すことで批判をかわす戦略を展開した。

 一方、自民側は宮古島市長選を来年9月の知事選に向けた初戦に位置付けていた。菅義偉首相も「強い関心を持っていた」(県連幹部)ため、12月には官房長官時代からの秘書を宮古に投入した。党本部も6日に元防衛相の小野寺五典組織運動本部長を派遣するなど積極的に関わった。一方、自民県連側は県議19人を1組2~3人のグループに分け、それぞれ20社前後の企業回りを指示した。

 総力を挙げて陣営に積み上がった集票カードは1万5千人余り。また、選挙戦最終盤には自民党から「下地氏が座喜味氏を14ポイントリードしている」との世論調査情報が出回り、「多くの企業が勝ち馬の下地氏に流れている」との情報が関係者間を駆け巡った。

 一方、宮古島が地元の下地幹郎衆院議員率いる保守系議員グループも支持拡大に奔走した。自民党に復党願を提出した幹郎氏にとって現職の当選は復党に向けた格好の実績づくり。国会活動の合間を縫って頻繁に宮古入りした。また、幹郎氏の復党を求める経済界有志による「保守合同を実現し沖縄の未来を創る会」(会長・国場幸一国場組会長)も市内に事務所を設置し、集票活動に加わった。

 だが、下地氏が獲得したのは1万2975票。「身内びいきの市政運営」などの不信感が市民の間に根強く、陣営内でもささやかれ、運動量が票につながらなかった。陣営関係者は「上滑りの典型だ。勝っている雰囲気が演出されただけで最初から負けてたんだよ」と自嘲気味に語った。

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 17日投開票の宮古島市長選は、「オール沖縄」勢力が推す新人の座喜味一幸氏が、自民、公明が支援した現職の下地敏彦氏を破り、初当選した。両陣営の舞台裏を探った。