県議選の5千票、土台に 陸自反対票、市政影響も<市政刷新の内幕 宮古島市長選>(中)


県議選の5千票、土台に 陸自反対票、市政影響も<市政刷新の内幕 宮古島市長選>(中)
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written by 佐野真慈、吉田健一

 昨年6月7日深夜、県議選で落選した座喜味一幸氏の選挙事務所は、負けた陣営と思えぬほど活気に満ちていた。陣営幹部が「座喜味が獲得した5166票は下地敏彦氏への不満票だ。市政刷新の土台ができた」と語ると、保守系支持者は「次につながる」「勝ちに等しい」と呼応し“祝杯”を挙げた。

 同日夜、「オール沖縄」勢力から支援を受け県議選に初当選した国仲昌二氏の事務所。「座喜味の5千票は大きい。この票が市長選の行く末を握る」。「オール沖縄」幹部らは口をそろえた。両陣営に「保革共闘」の腹案が生まれた瞬間だった。

 昨年10月初旬、腹案が具現化する。水面下で調整を進めた国仲氏と保守系元市議の新里聡氏を中心に「市政刷新会議」が立ち上がった。だが、陸自配備問題や、これまでの分裂選挙に起因する革新内部のしこりなど課題は山積していた。

 協議を重ね、陸自問題は玉城デニー県政と連携し国に丁寧な説明を求めることで合意した。「刷新という最大の目標を前に、互いに腹4、6分で行く。前進のためだ」(革新系幹部)

 しかし、具体的に誰を統一候補として擁立するかでもめた。勝てる候補を目指す国仲氏と、革新からの擁立を目指す市議らとの革新内部で食い違いが続いた。また、一部の市民が6月県議選で出馬に意欲を示したものの、革新分裂を回避するため辞退した県政策参与の亀浜玲子氏擁立に向けた署名活動を始めた。

 来年秋の知事選に向けて弾みを付けたい玉城知事にとっても宮古島市長選は「大事な初戦」だ。知事後援会幹部が署名活動をやめるよう直接くぎを刺し、事態は収束した。

 結果、「勝てる候補者」として知名度のある元自民県議の座喜味氏擁立に落ち着いた。知事も県議会での座喜味氏の活動を評価しており、座喜味氏擁立に難色を示すことはなかった。

 擁立の遅れで出馬表明は告示の1カ月半前、政策発表は1カ月を切った12月10日と出遅れたが、陣営は泰然自若としていた。「焦ることはなかった。不満票5千は揺るがないし、革新票は離れても相手には流れない。保革が座喜味氏でまとまった時点で勝負は決まっていた」(保守系幹部)

 座喜味氏にとって市議補選も追い風となった。革新内部で対立する勢力それぞれが候補者を擁立したことで、両勢力の選挙運動がそのまま座喜味氏の集票と連動した。陸自弾薬庫建設の反対運動に取り組んできた下地茜氏の立候補も大きかった。配備に反対する市民が持つ自民への拒否感もプラスに働いた。

 茜氏は市長選では論戦が深まらなかった陸自配備問題で、配備反対票の受け皿となり1万57票を得て補選でトップ当選した。革新幹部は「表に出てこないが配備反対の民意と革新の勢いを示せた」と胸を張る。

 一方、保守側幹部は「1万票は予想外だ。市長に配備容認ではなく反対を迫る根拠になり得る。これからが大変だ」とつぶやいた。