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大学共通テスト 思考力問い、難易度高まる<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 大学入学共通テストが16、17日に行われた。共通テストは31年続いたセンター試験の後継だ。

 〈2017、18年に実施された共通テストの試行調査では国語で法律条文を題材にしたり、数学で建築基準法を踏まえて階段の大きさを割り出させたり、センター試験にはない問題が頻出した。/今年の本番はこうした問題は少なく、センター試験を踏襲した内容が目立った。それでも高校教員や予備校講師からは「センター試験に比べてやや難化した」「消去法では解けない問題が増えた」との分析が相次いだ。/主な要因は思考力をより重視した試験への転換にある。(中略)英語のリーディングでは生徒が校長と校則を巡って交渉する場面を取り上げ、「あなたならどうするか」と問うた。埼玉県立浦和高の大沢海教諭は「相手にどう反論するか、論理的に答える思考力だけでなく、表現力も問える」とみる〉(18日「日本経済新聞」電子版)。

 筆者は全問題に目を通し、数学ⅠA、ⅡB、国語、英語、倫理、政治経済、世界史の問題を解いてみた。難問、奇問の類いはない。大学入試センターが、高校の学習指導要領の範囲でよく練った作問をしている。難易度に関しては、筆者が実際に解いてみたところでは、数学ⅠAと英語が従来のセンター試験と比べ、難しくなったように思えた。特に数学ⅠAの問4が、さいころを振るので一見、確率の問題のように見えるが、一次方程式の理解を問うている良問だ。

 英語は、センター試験では、発音や文法問題が独立していたが、共通テストではすべて読解問題になり、分量も増えた。埼玉県立浦和高校の大沢海先生が述べているように「相手にどう反論するか、論理的に答える思考力だけでなく、表現力も問える」作問だ。実務で役に立つ英語に近づいた試験だと思う。

 国語の小説では、加能作次郎「羽織と時計」から出題された。加能作次郎(1885~1941年)は、現代ではほとんど忘れ去られた小説家だ。

 〈明治18年1月10日生まれであるが、実際の生年は前年という。石川県出身。早稲田大学英文科卒業。その間、外国文豪の評伝や、不遇な幼少期に材を取った出世作「厄年」(1911)などを「ホトトギス」に発表。博文館入社後、田山花袋に師事、「文章世界」編集に携わる一方、苦難な少年期を観照的態度でリアルに描いた「世の中へ」を「読売新聞」に連載(1918)、作家的地位を不動にし、小説家協会創立にも尽力。「若き日」(1920)、「幸福」(1921)など人情味豊かな自伝的作品を次々と発表、大正期私小説の中堅作家として活躍した。最晩年の秀作「乳の匂ひ」(1940)もある。[小野寺凡]〉(「日本大百科全書(ニッポニカ)」)。

 予備校の受験対策では扱われない作家と思われるが、明晰(めいせき)で味わいのある文章を書く。人気漫画「鬼滅の刃」の舞台である大正時代の雰囲気を理解するのに加能作次郎の作品は役立つ。大学入試センターも「鬼滅の刃」ブームを意識しているのかもしれない。

 沖縄の未来にとって教育はとても重要だ。県内の受験生、教育関係者の共通テストに関する関心は高い。沖縄の教育関係者がこのテストをどのように評価しているかについて本紙でも詳しく伝えてほしい。

(作家・元外務省主任分析官)