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ビーチ近くのコテージ、開業できないまま売却へ 急増した民泊も次々廃業<変革沖縄経済>9


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
本島中部の不動産業者が建て、売却を予定する小規模宿泊施設=8日、本島中部

 「急激な業況悪化で会社の倒産も頭をよぎった。リスケ(融資の条件変更)をするよりは資産を売却する判断に至った」(不動産会社の社長)

 本島中部のある不動産会社は昨年5月、宿泊収益を見込み、海沿いにコテージを建設した。ビーチまで歩いて行けるロケーションに加え、独特の外観が目を引く。だが、同社は一度もこのコテージを開業せず、現在は「新築物件」として売却交渉を進めている。

 コテージは6~8人の大人数で利用できることを売りにしており、部屋数は2室と少ないが、高い収益を見込んでいた。1億円以上を投資し、高級感を演出しようと備え付けの家具にもこだわった。しかし、コロナ禍で入域観光客数の大幅減少のあおりを受けた同社は、宿泊業で収益確保が難しいと判断し、物件を手放す道を選んだ。

 コテージは春ごろまでの売却を目指し、売買が成立しない場合は外国人への賃貸物件として使用する考えだ。同社の社長は「借り入れの返済を進めていきたい。今後は投資や経費を切り詰め、支出を最小限にすることで従業員を守らないといけない」と語った。

 コテージ以外に、ウイークリーやマンスリーマンションを観光客向けに提供していたが、宿泊業からは手を引くという。

 この業者が手放す予定のコテージなどは、旅館業法に定められた簡易宿泊施設に当たる。沖縄を訪れる観光客数が年々拡大していたコロナ禍前は、こうした小規模な宿泊事業の運営に収益が見込まれるとして、異分野からの参入が相次いでいた。特に近年増加していたのは、住宅を活用した「民泊事業」だ。

 2018年6月、住宅宿泊事業法が施行され、住宅に旅行者を有料で泊める民泊が全国で解禁された。政府の統計によると、県内の民泊事業の届出件数は大都市圏に次ぐペースで急増した。コロナ前の19年から20年の間に、総数は前年比で50%以上増えた。

 だが、コロナの影響を受け、事業者数の伸びは一気に鈍化する。民泊の届出件数は、20年1月時点で1144件だったのに対し、21年1月は1160件と、微増にとどまった。さらに、累計の事業廃止件数は20年1月に118件だったのが、21年1月は268件と2・27倍になり、廃業を選ぶ事業者も出ている。

 県によると、昨年9月から10月にかけて事業廃止を届け出た事業者に要因を聞くと、「コロナによって収益が見込めない」という事業者がほとんどだった。

 県内で飲食業を営む男性は19年1月、読谷村に民泊施設を開業した。1年目の稼働率は約80%で、県外客や台湾、香港などのインバウンドを取り込み順調だったという。だが、コロナの影響が拡大した昨年5月以降、予約はほとんどゼロとなった。感染症の再拡大による現在の緊急事態宣言などを受け、今年2、3月の予約も入っていない。

 居住用の物件を投資のために買ったという男性は「民泊事業を本業にしている人は次々と物件を手放している。民泊をメインとした宿泊事業で収入を得ていくのは難しい」と語る。男性は観光需要の戻りを期待しているが、資金に行き詰まった場合、物件の売却も考えるという。

 入域観光客数の増加に伴い、多様なニーズに応え、収益として取り込もうと増えてきた小規模な宿泊施設への投資は、曲がり角を迎えている。

 (変革沖縄経済取材班 池田哲平)

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