prime

1泊11万円!でも来年元日は既に満室「百名伽藍」の逆転発想<変革沖縄経済>1


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
南城の海岸にたたずむ百名伽藍

 新型コロナウイルス感染拡大の影響が長引き、県経済は厳しい試練に直面している。感染症による危機は経済社会の弱点を直撃するとともに、課題を乗り越えることを促してもいる。県内企業のビジネスモデルや基幹の観光産業の再構築に向けた、変化と改革の動きを追う。(変革沖縄経済取材班 中村優希) 

   ◇    ◇
 久高島や斎場御嶽(せーふぁーうたき)など聖地に囲まれた南城市玉城の海岸沿いに、リゾートホテル「百名(ひゃくな)伽藍(がらん)」が立地する。客室わずか14室ながら、宿泊価格は2人1泊11万円からという少数高品質を徹底し、県内でも最高価格帯に位置する。

 沖縄を代表するラグジュアリーホテルとしてブランドを築いてきた百名伽藍も、新型コロナウイルスが猛威を振るった2020年は影響を免れなかった。緊急事態宣言が発令されていた5月に、一時休館へと追い込まれた。

 それでも感染状況が落ち着いた昨年6月に再開すると、年後半は持ち直し、年末年始の売り上げは前年を上回った。コロナ禍で高稼働を支えるのは、これまでに獲得してきた根強いリピーターだ。固定客による大みそかの予約は4年後の2025年まで入っている。

宿泊者が利用できる予約制の露天風呂=15日、南城市玉城

 国の緊急事態宣言の再発令で厳しさが続くものの、収束を見据えて、さらにアッパークラスの需要を見込んだ客室料金50万~100万円の新棟開発の構想も進めている。

 ホテルを経営するJCC(糸満市)の渕辺美紀会長は「コロナ禍でも県内の投資は活発だ。観光が回復した時までに(ホテルの)魅力を落とさないように磨き続けていく」と話す。

百名伽藍の経営戦略を語るJCCの渕辺美紀会長=15日、南城市玉城の百名伽藍

「量から質」先駆けに 少人数で生産性向上

 入域観光客1千万人へと一気に駆け上がってきた沖縄の観光市場を評価し、ヒルトンやハイアット、リッツ・カールトンなど世界的ブランドが、近年続々と進出している。「量から質」が沖縄観光の課題とされる中で、JCC(糸満市)の経営する「百名(ひゃくな)伽藍(がらん)」は、地元企業として先駆けて質の高さを追求してきた。

 百名伽藍が開業したのは2012年、沖縄の観光客数が500万人台で推移していた頃だった。多くの宿泊客を集めるために豪華さと大規模化を競うのがリゾートホテル建設の主流で、高価格帯のラグジュアリーホテルは沖縄にまだ少なかった。

 だが、県内企業の人手不足感が出てきていた中で、JCCの渕辺美紀会長は「労働集約型では限界がある」と判断した。客室数を20室前後に限定する分、少人数のスタッフでも高い収益を上げられる、高品質で生産性の高い施設づくりを目指した。

 県の観光消費額調査によると、沖縄旅行に訪れた観光客が滞在期間中に宿泊費として落とした費用の平均は、1人当たり約2万3千円だ。これに対し、百名伽藍は一般客室が2人1泊で11万円、現在では1番人気となっている「伽藍スイート」は同16万5千円という料金設定であり、大きな挑戦だった。

 「和」や「琉球」の雰囲気をコンセプトに据えた宿泊施設は沖縄にほとんどなかった当時、日常を離れた静謐(せいひつ)な空間づくりを徹底した。その立地も、リゾート地として人気のある本島西海岸や北部ではなく、東海岸の南城市玉城であり、全てが沖縄観光の主流とは真逆だった。

百名伽藍のエグゼクティブスイート

 しかし、その戦略は見事にはまった。一段高いレベルの観光体験を求めていた国内、国外の富裕層をはじめ、沖縄好きの観光客の需要をつかんだ。「ワールド・ラグジュアリーホテル・アワード」を7年連続で受賞するなど、沖縄旅行のあこがれの宿として国内外で知名度を高めてきた。

 だが、世界的な新型コロナウイルスの流行によって観光客が止まった。百名伽藍も昨年5月の1カ月にわたる一時休業など、これまでにない落ち込みを経験した。渕辺会長は「(売り上げの)数字は悲惨な状況が続き、先が見えない苦しみがあった」と振り返る。

 感染状況が落ち着いた10月からは「Go To トラベル」の効果もあり、前年を超える売り上げが続いた。施設内は風通しが良く、客室数も限られているため、「密」を避けた滞在ができる。年末年始には宿泊回数が20回目という利用客もいた。既に満室という2022年元日の予約も、7割がリピーターだ。
 

静謐さを追求したたたずまい。この年末年始も多数のリピーターが訪れた=17日、南城市玉城

 シーズンによって客数の差が大きい沖縄では、繁忙期には高く、閑散期には安く料金を設定して収益を得るホテルが多い。百名伽藍は年間を通して価格を固定し、季節変動の安売りはしない。ブランドの価値を守り、ホテルに対価を払う上質な客層を取り込む。こうして獲得してきた固定客の存在が、観光客数が大幅に落ち込む苦境を支える強みとなっている。

 コロナ禍の嵐を耐え、沖縄観光の復活を見据える渕辺会長は「個々が高品質、高単価を目指すことで、県全体の観光収入の収益性を高めることにもつながる」と話した。

【関連記事】
▼プライベート機と独立ヴィラで3密とは無縁「ジ・ウザテラス」
▼脱観光業「宿泊客ゼロでいい」ヤンバルホステルは人生を提供する