菅首相、県政与党の分断図る 公明がげき飛ばし自民フル回転<現職大勝の波紋・浦添市長選>下


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中川京貴県議(左から2人目)から選挙の状況報告を受ける松本哲治氏(左)=7日午後10時34分ごろ、浦添市伊祖の選挙事務所

 1月31日の浦添市長選告示数日前、県政与党の一員ながらも玉城デニー知事とは距離を置く赤嶺昇県議会議長の携帯電話が鳴った。電話の相手は菅義偉首相。「市長選への協力を頼みたい」。選挙戦の最大争点だった那覇軍港移設で「容認」の立場を取ることを理由に市長選で静観を保った赤嶺氏に、松本哲治氏への支援を呼び掛ける内容だった。

 1月17日の宮古島市長選では菅首相が支援した候補者が敗北した。首相にとって浦添市長選は県政奪還に向けた重要選挙だった。宮古島市長選に続き秘書を告示前に派遣し、自民党県連所属議員と共に企業回りを徹底させ、経済界の引き締めを図った。

 赤嶺氏からの支援は実現しなかったが、松本氏は自民、公明両党の推薦に加えて、下地幹郎衆院議員=無所属=率いる「無所属の会」の推薦を受けた。しかし政党や政権の思惑とは別に無党派層への支持拡大を意識した松本陣営は、選挙戦で「市民党」を前面に出し、政党色を抑える戦略にこだわった。自民党県連も当初は、松本氏の知名度と行動力を頼りにし、積極的に介入しなかった。

 しかし現職の松本氏は新型コロナウイルス対策などの公務に追われ、選挙運動は制限された。そんな「松本頼り」の陣営に業を煮やしたのが、金城勉代表ら公明党県本幹部の面々だ。

 「ネット対策が弱い」「女性、若者対策はどうなっている」。金城氏らは浦添市長選告示の1週間ほど前から自民党県連の中川京貴会長らに連日、げきを飛ばし、早急に選挙態勢を組み直すよう求めた。公明党の要請に呼応する形で自民県連きっての選挙参謀としての顔を持つ翁長政俊元会長が告示の数日前から陣営入りした。

 そこから県連組織がフル回転した。国会議員や県連所属県議、市町村議員を大量投入し、企業回りと市議選候補者とのセット戦術を展開した。さらに、浦添市に本社がある沖縄電力相談役で那覇商工会議所会頭の石嶺伝一郎氏や自民県連最高顧問の仲井真弘多元知事ら経済界の大物らも、関係する企業に対して期日前投票を呼び掛けた。期日前投票は過去最多を更新し、投票率も前回より上がり、松本氏は浦添市長選で最多となる3万3278票を獲得した。

 7日夜、3選に沸く松本氏の選挙事務所で中川氏は息巻いた。「松本市長が公約を実現できるように党本部、県連も一生懸命取り組む。政策を実現できるのが我々自民党だ。全ての選挙戦に勝っていく」

 一方、赤嶺氏が所属する会派おきなわは、4月のうるま市長選では自民が推薦する中村正人氏の推薦を決めた。「オール沖縄」は分裂の兆しを見せ始めている。 

 (浦添市長選取材班)