【記者解説】持続可能な観光地へ 客数追求からの転換を目指す沖縄県の戦略とは


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 富川盛武副知事が発表した新たな沖縄観光基本方針案は、新型コロナウイルスの感染拡大で大きく落ち込んだ観光産業の復活を進める上で、観光客の数を追い求めたコロナ前の姿ではなく、高付加価値型で「持続可能な観光」へと、沖縄観光の転換を遂げる契機にするという狙いがある。

 県はこれまで、第5次県観光振興基本計画で2021年度に入域観光客数1200万人という目標を掲げ、施策を推進。目標に向けて観光客数は順調に拡大してきた。半面で、交通渋滞や地元住民とのトラブルといった「オーバーツーリズム」のほか、観光開発による環境や景観の改変、大手資本の参入に伴う過当競争なども起き、県民が暮らしの向上を実感しにくいといった課題も大きくなっていた。コロナ影響による観光産業の壊滅的な打撃で、これまで進めてきた計画や目標を一から立て直す必要に迫られる中で、外部環境の変化に強い持続可能な観光地として在り方を考え直す機会となっている。

 富川副知事は「従前とは違う方向を示さないといけない」と述べ、今回の基本方針は、落ち込みが続く観光業界からの「観光回復に向けた道筋を示してほしい」という要望に応えたと強調した。ただ、多くの事業者は売り上げの急激な落ち込みなど窮状に直面し、従業員の雇い止めといった雇用情勢も深刻さを増している。「Afterコロナ」にたどり着くまでに、観光事業者が事業継続できるのかどうかが喫緊の課題となっている。

 現在も有効な経済対策が打ち出せない中、行政に支援を求める要請も後を絶たない。短期的な回復の道筋についても、より強力な対策を示すことが求められている。
 (中村優希)