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ゲイカップルだけど戸籍は男女…2人が望む「結婚」<レイとユージの物語>1 


この記事を書いた人 Avatar photo 大城 周子
お気に入りの海岸沿いを歩くレイさん(左)とユージさん=2021年1月、北谷町美浜

 きらきらと陽光に揺れる海を眺め、たわいもない話をしながら散歩する。この何気ない日常が2人のお気に入りだ。沖縄で暮らすブライアント・レイさん(35)と船橋祐二さん(37)は付き合ってもうすぐ2年。互いを人生のパートナーと決め、今年には婚姻届を出すつもりで準備を進めている。
見た目は2人とも男性。そして男性を愛するゲイ。だけど戸籍は女性と男性。レイとユージ、ちょっと複雑な事情のカップルの物語――。

■「間違って生まれた」女の子

 沖縄に生まれ育ったレイさんは、出生時の性は女性で自認は男性のトランスジェンダー。幼い頃から「間違って女に生まれた」という思いを抱えていた。中学生のときに「性同一性障害」という言葉を知り、「ああ、これだ」と心のもやが晴れた。

 自認が男性なら恋愛対象は当然女の子。そう思っていたレイさんはレズビアンとして振る舞ってきた時間も長い。だが数年前、結婚の約束までした恋人と破局したとき、ふと考えた。なぜ相手が男性じゃ駄目なのか。

 「理由が、自分は男だからっていう固定観念しかなかったんです。それじゃ差別と一緒じゃんって…。男の人を意識し始めたら歯車がかみ合ったというか、アイデンティティーを見つけた感じですごく生きやすくなった」

告白はレイさんから。ユージさんの瞳と所作の美しさに引かれたという=2021年1月、北谷町

■入れなかった恋愛トーク

 一方のユージさんは茨城出身。物心がついた頃から、目で追い心がときめく相手は男の子だった。「セクシャルマイノリティーって結構つらい経験をしている人が多い。自分自身はそういう経験はなくて、割と平凡に生きていたかな」と振り返る。

 ゲイとして息苦しさを感じたことといえば、思春期に恋愛話で盛り上がる友だちの輪に入れなかったこと。そして端正な顔立ちで女子から人気があり、理由をはぐらかしながらアプローチを断り続けないといけなかったこと。

 理容美容系の専門学校を卒業後、初めて女友達にカミングアウトした。「ああ。なんかそんな気がしてた」。あまりにあっさりした返事に拍子抜けして、肩の力が抜けた。

 それまでは「彼女いるの?」といった質問を受けるたびモヤモヤしていた。「『興味な~い』とか言ってごまかしていたけど、本当の自分を隠している感じがして。カミングアウトしてからは自然体でいられるようになったし、気軽に恋愛話もできるようになった」

2人で手作りした婚約指輪

■性別を変える代償

 レイさんは5年前に乳房を切除したが、子宮や卵巣を摘出する「性別適合手術」は受けていない。日本では戸籍の性別を変更するためには性別適合手術が要件の一つになっている。レイさんは男性として社会生活を送れていることもあり、体への負担が大きい適合手術は慎重に進めるつもりでいた。

 胸の切除をした際「覚悟はしていたけど、自分の感覚の一部を失ったのがショックだったんですよね」とレイさんは振り返る。「そもそも体の一部のあるなしで性別って決まるもんじゃないって思いもあった」。そんな中で出会ったのがユージさんだった。

 2年前の5月、東京のバーでたまたま隣り合った2人。会話が弾み、互いの人柄にひかれた。翌日にはレイさんが告白。積極的なレイさんに対し、ユージさんは「頭の情報処理が追い付かなかった」と笑う。それまでFTM(Female to Male=出生時の性は女性で自認は男性)という言葉すら知らなかった。トランスジェンダーについて検索するなどして数日考えた。

 「人として好きだし一緒にいて楽しい。体の一部が女性のままだとしても、付き合わない理由がなかった」

 プロポーズはレイさんから。「波長が合う。結婚は自然な流れだった」と2人は言う。だが、レイさんには葛藤もあった。

沖縄で一緒に暮らすレイさんとユージさん=2021年1月、北谷町

■パートナーシップじゃだめ?

 「結婚はしたいけど性別はどうする?どうしたい?ってもんもんとしてましたね」と振り返るレイさん。男性として生きていくために戸籍の性別を変更したい。でも、今の日本では法律上、同性カップルの結婚は認められていない。戸籍変更を選べば婚姻できず、婚姻を選べば戸籍は女性のままというジレンマに悩んだ。

 全国の自治体で広がる「パートナーシップ制度」を使えばいいのでは?という人もいる。

 パートナーシップ制度は、同性カップルを条例や要綱で「結婚に相当する関係」と認め、証明書を発行する。親族に限られる公営住宅での同居が認められたり、企業の福利厚生を受けられたりするなどのメリットがある。沖縄では那覇市が2016年に導入し、19年の琉球新報の調査では7市町村が導入を「検討している」と回答している。

 しかし、この制度の最大の問題は法的拘束力がないこと。法律上は夫婦にはなれず「赤の他人」だ。共同親権を持てない、住宅ローンを共同で組めない、遺言がなければ相続できない、パートナーが危篤のときに面会を断られる可能性がある――など、保証は十分とはいえない。

 レイさんは「もしものとき、病院で家族とみなされず寄り添えないかもしれないという不安が大きかった」と言う。「戸籍上は女だろうが周囲は男として見てくれるし、自分も男として生きている。それでいいじゃないかと思うようになった」と割り切った。

全ての人が生きやすい社会を目指し、2013年から那覇市では毎年「ピンクドット沖縄」が開かれてきた=2019年9月

■特別扱いしてほしいわけじゃない

 現行の「性同一性障害特例法」では、戸籍の性別変更には結婚していないことが要件の一つになっている。つまり将来的に日本で同性婚が認められても、レイさんが既婚者となれば戸籍を変更できるかどうかはわからない。

 日本では2019年2月、同性カップルの婚姻実現を国に求める「結婚の自由をすべての人に」訴訟が始まった。札幌、東京、名古屋、大阪、福岡で裁判が進む。
こうした動きも背景に、レイさんは「男女じゃないと結婚できないっていうのはやっぱりおかしいと感じている」。レイさんたちにとっての本来のベストアンサーは、トランスジェンダーとして戸籍を男性に変えた上で、同性婚できることだ。

 「SNSとか見ているとFTMゲイって結構いるんですよ」とレイさんは言う。「僕らの選択が正しいと言いたいわけではなく、人によって望む形は違うので選択肢がほしい」
 自分たちのようなカップルの存在を知ってもらうことで、今の婚姻制度に一石を投じたいとの思いがある。特別扱いしてほしいわけではない。男女の性別に関わらず、愛する人と結婚できる自由がほしい。願いはただそれだけだ。

(大城周子)

<レイとユージの物語>2 「一生わかってもらえない」母が気づいた大切なこと-に続く