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「一生わかってもらえない」母が気づいた大切なこと<レイとユージの物語>2


この記事を書いた人 Avatar photo 大城 周子
レイさん(右から2人目)の両親や祖母もユージさんの人柄を気に入っている

(ゲイカップルだけど戸籍は男女…2人が望む「結婚」から続く)

 幸せそうな笑顔が並ぶ1枚の「家族写真」がある。ブライアント・レイさん(35)と船橋祐二さん(37)が、レイさんの両親や祖母と一緒に写っている。

 2人とも見た目は男性同士のゲイカップルで、現在婚約中。レイさんはFTM(出生時の性は女性で自認は男性)で、戸籍は女性のまま婚姻届を出す予定だ。

 どちらの両親も2人のセクシャリティーを理解し、結婚を祝福している。レイさんの母秀美さん(57)は「ユージ君は話が面白いし気配りができるとてもいい子。彼が来てから家族でよく集まるようになって、『潤滑油』みたいな存在」と言う。

 LGBTと呼ばれるようなセクシャルマイノリティーには親との関係に悩む人も多い。拒絶されて行き場をなくしてしまうこともある。連載2回目はレイさんと両親の物語を紹介する。

レイさんの父パトリックさんと秀美さん=2021年1月

■いずれ治る…

 レイさんの改名前の名前は「江梨奈」。両親はいまでも「エリナ」「エリー」と呼んでいる。

 幼い頃から自身の性に違和感を持っていたレイさんが「性同一性障害」という言葉を知ったのは中学2年生の頃。両親に打ち明けると、アメリカ出身の父パトリックさん(66)は受け入れてくれたが、母の秀美さんはショックを隠さなかった。

 レイさんは母に理解してもらいたい一心で性的少数者について書かれた本を渡すなどした。だが秀美さんは仕事が忙しかったこともあり、「いずれ治るから」と取り付く島もない態度。レイさんは「この人はきっと一生理解してくれないんだと思った」。

 20歳になれば親の同意なしに治療ができる。レイさんも20歳のときに診断を受け、医師の勧めで両親をクリニックに呼び出して説得を試みた。
そのとき、声を荒らげたのは意外にもパトリックさんだった。「うちの子のことは僕が一番わかっている!」。初めて見る父の姿に、レイさんは動揺した。

 パトリックさんによれば、性別適合手術を前提に説明する医師に不信感が募ったという。「リスクが高い手術を簡単に奨励するような態度が嫌だった。男女関係なくエリナはエリナで、ストレートだろうが、ゲイだろうが気にしない。だけど手術だけは慎重に考えてほしかった」

実家の玄関には両親の写真の横に、レイさんとユージさんの写真が飾られている

■「子どもの敵になってはいけない」

 その後、ホルモン治療を開始したレイさん。声が低くなり、ひげも生え、30歳の頃には胸も切除した。
 レイさんの見た目の変化と比例するように、母の心境も徐々に変化していった。

 「縁があってうちに生まれてきた子。一番に願うのは幸せになってほしいということ。それなのにどうして受け入れられないのかと自問したとき、体裁や見栄が邪魔していることに気づいた」

 そして、揺れる秀美さんの背中を押したのは友人の言葉だった。「自分は将来、孫を見られないかもしれない」と嘆いた秀美さんに、その友人は返した。「孫が見られるかどうかなんて、ゲイじゃなくてもわからないじゃない。だけど、子どもの敵になってはいけない。一番つらいのは本人なのに、あなたが味方でいないでどうするの」

 秀美さんは身近な人に「ゲイは嫌い。次の世代を生まないから」と言われた経験がある。セクシャルマイノリティーの人たちが日常的にさらされている偏見に、胸が痛んだ。「親として、何か言われたときに『私の子はこれでいい』と返せる気持ちを持っていたい」と思うようになった。

 周囲の拒絶が悲劇的な結果につながることもある。2005年に厚労省の補助を受けて行われた調査によると、ゲイとバイセクシュアル(両性愛者)の男性約6000人のうち65.9%が自殺を考えたことがあり、14%が自殺未遂の経験があると答えている。

 秀美さんとパトリックさんは親として約束していることがある。「子どもにとって何が幸せなのか。私たちがそれを見誤ってはいけない。子どもが心のよりどころ、行き場を無くしてしまう。私たちは常に家の扉を開けて待っていなくてはいけない」

昨年の「九州レインボープライド」にオンライン参加した際の写真

■分類ではなく「いいね」がうれしい

 パトリックさんにとってレイさんは「グッドパーソンで自慢の子」だ。そしてユージさんとの結婚については「人生をシェアできる相手を見つけることはたやすいことじゃない。互いに尊敬しあって、ただただ幸せになってほしい」と願う。

 我が子がセクシャルマイノリティーだと知ったら親はどう受け止めたらいいのか--。
 秀美さんは「受け入れるには時間がかかるかもしれない。一番大切なのは愛情と、その子個人を見ること。親も努力が必要だし育て直される」と言う。

 人生をシェアできる相手に巡り会えたレイさんとユージさん。2人が思う理想の社会は「LGBTっていう言葉がなくても済む社会」だ。

 レイさんは言う。「人はそれぞれ個性が違って一つのカテゴリーには収められない。誰を好きだろうが、誰と付き合っていようが『へえーいいね』ってナチュラルに返せる社会になればいいな」

(大城周子)