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「もっと女性の声届けたい」 米軍基地を抱える町で32年ぶりの女性議員 <「女性力」の現実 政治と行政の今>11


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「町政に女性の声を届けたい」と語る嵩原妙子氏=1月20日、嘉手納町水釜

written by 当銘千絵

 1月18日に実施された嘉手納町議会議員選挙で、ベテランの現職や前職が多数出馬する中、他を引き離す得票率でトップ当選したのは新人の女性だった。嵩原妙子氏(54)だ。32年ぶりの女性町議誕生に「男社会の町議会がやっと変わるかもしれない」と歓迎の声が上がる。一方で、性別役割分業の押し付けや「地盤、看板、かばん」のハードルなど、政治参画での男女差解消には課題があると指摘する声も根強い。

 近隣の北谷町や読谷村の議会では多くの女性が活躍する中、嘉手納町では1985年に選出された前川キヨ氏以来、女性は不在だった。さらにさかのぼれば、嘉手納村時代に49年から1期4年務めた真境名ツル氏がいるが、女性議員は嵩原氏を含め歴代3人にとどまる。

 その背景に何があるのか―。61年から85年まで町議を務めた渡口彦信氏(94)は「極東最大の空軍基地を抱える自治体ならではの苦悩が、理由の一つにあるのでは」と分析する。渡口氏が在任中も、議会は嘉手納基地から派生する騒音問題や、ジェット機燃料の流出など米軍関係の事件事故が頻発し、議員は定例議会に加え、突発的で不規則な対応が求められる案件が多い。

 渡口氏は「昔の地方議員は各部落の代表で、男だった」と指摘する。専業主婦が多かった当時の女性にとって、選挙に必要とされる地盤固めや選挙資金の収集などハードルが高く感じられる対外的要因もあったという。「政治は男の世界で、女性は家庭を守るものだという古い概念の名残も、女性の政治参画を阻む一因にあるはずだ」

 今年1月まで6期24年務めた元町議の知念隆氏(65)=公明=は、子育て支援や介護といった問題は全て政治につながっているのに、そのルールを決める町議会に、実感を持った女性の視点が足りないと感じていた。知念氏は「子育てや妊婦健診など女性を取り巻く課題を議会で取り上げたこともあるが、男性と女性では理解の深度が違う」と痛感し、自身の後任は女性に任せたいと党本部にも強く訴えていた。そこで白羽の矢が立ったのが嵩原氏だった。

 嵩原氏は西表島出身で、結婚・出産を機に97年に夫の実家がある嘉手納町へ移り住んだ。2人の娘の育児中に給食費や妊婦健診の無料化が実現し、暮らしと政治のつながりを実感した。政治という未知の世界に飛び込むことにためらいもあったが、「若年層の定住化促進など町の課題に取り組みたい」と出馬を決めた。出身地ではない嘉手納町で当選できた背景には、選挙戦のノウハウや後援会の人員体制など、公明党県女性局のベテラン勢を中心に、所属組織の全面的な支援があった。

 「党の支援は大きかった。32年ぶりの女性議員という期待と重圧をしっかりと受け止めている」。嵩原氏は、町には商工会をはじめ各組織でリーダーシップを発揮している女性は多数いるが、政治参画には気後れしている傾向があるように感じている。「身近に先例があれば状況は変わるかもしれない」と話す。政党所属の有無にかかわらず、意欲のある女性が積極的に政治に挑戦できる環境づくりも課題の一つだと指摘する。「自身が突破口になりたい」。女性の声をもっと町政に届けることを目指し、元気な町づくりの第一歩を踏み出した。


 世界的にも遅れている日本の「ジェンダー平等」。玉城県政は女性が活躍できる社会の実現を掲げ、県庁内に「女性力・平和推進課」を設置しましたが、政治や行政分野で「女性の力」を発揮する環境が整わない現状があります。女性が直面する「壁」を検証します。報道へのご意見やご感想のメールは、seijibu@ryukyushimpo.co.jpまで。ファクスは098(865)5174。

 

 

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