【特別評論】国際女性デー 男性中心社会を投影する新聞の紙面 メディアこそ多様性を


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written by 知花亜美(地方連絡部長)

知花亜美(地方連絡部長)

 新聞を手に取って、登場人物を性別で分けて数えてみよう。ほとんど男性ということに気付くはず。政治家、経営者、大学教授、医師、校長…。世の中のリーダーは大半が男性だ。男性中心の社会が紙面に反映されている。

 県民も読者も男女半々だ。紙面も半々であってもおかしくない。しかし同じ教育を受けてきたとしても、どこかで女性はリーダーの枠から外れてしまっている。

 一方、世の中にはすてきな女性はたくさんいる。取材を通して記者自身が元気をもらう女性たちを、紙面で紹介すれば読者も元気になるんじゃないか。性別にとらわれず、誰もが生きやすい社会になってほしいという期待を込め、編集局の女性記者が中心となり、2019年から始めたのが、3月8日の国際女性デーの企画だ。

社内の状況

 本紙では1月から政治面で連載「女性力の現実」を展開している。市町村議員や役所職員の管理職に女性が少ない現状をデータで示し、登用を呼び掛ける。取材先からは記者に「琉球新報はどうなの? 新聞社も男社会でしょ」と、よく問われる。

 ご指摘の通り、琉球新報社の役員、局長に女性はいない。そもそも記者職は長時間労働になりがちだ。事件事故の突発対応や取材先との飲み会も仕事のうちとされ、長時間労働に耐え得る独身か、配偶者が家事・育児を担える男性記者が重宝される。

 出産、育児などで一線を退く期間がある女性よりも、男性が管理職になる傾向がある。

「女性力」の企画

 「県の審議会の名簿に、女性委員だけ名前に○印がついている。何か変じゃないですか」。「女性力の現実」の企画が生まれたきっかけは、政治部1年目の女性記者の問い掛けだった。ちょっとした違和感から、議員や管理職の女性の人数、ひいては採用時の男女比はどうなっているのか。男性記者も含め、部員全員が「ジェンダー平等」についての疑問に発展し連載が始まった。

 昨年12月、コザ騒動から50年という節目に、社会面で連載が掲載された。テーマは「女性たちのコザ騒動」。米政府の圧政に、民衆が数十台の米軍車両を焼き払ったコザ騒動は、過去50年、何度も紙面で取り上げられてきたが、女性の視点の証言は今回が初めてだった。この企画は入社4年目の女性記者が担当した。

多様な価値観が鍵

 政府を挙げて今、女性活用が求められている。しかし単に数を増やせば良いとする労働力としての女性活用ではなく、本当に求められているのは視点の多様性である。

 女性だけでなく国籍や人種、障がい者など幅広い価値観や背景を持つ人の意見を自社に反映させることで、新たな企業価値が生まれ、成長につなげるのが本来の趣旨である。

 「女性力」やコザ騒動の企画も、同質の価値観を持つ人だけの議論では生まれなかったであろうし、素朴な違和感に耳を傾ける女性の役職者が身近にいたことも奏功した。多様性は、世論をリードするメディアにこそ必要となっている。

性別役割分業 是正を

 日本は一般的に家事や育児、介護を担うのは女性で、男性は稼ぎ頭になることが期待される。そのような性別役割分業の固定化は、男女の働き方にも影響を及ぼす。

 稼ぎ頭の長時間労働を前提とする働き方は、企業にとっても残業代の負担増となり、働く側にとっても生活の質が低くなる。みんなが定時に帰ることが当たり前になれば、優秀な従業員が集まり商品価値が高まり、より商品が売れ、家族も喜び世間の印象も良くなる「三方よし」が実現する。働き方改革の波は新聞社にも押し寄せており、まさに今、過渡期にある。

 「女性力」の取材にあたる男性記者も、男性優位社会の違和感に気付き始めている。社内の変化は紙面の変化につながる。

 国際女性デーに限らず、紙面の半分、それ以上に女性が登場する新聞、ひいては女性リーダーが当たり前の社会となるよう、多様な意見や視点があることを今後も紙面で示していく。

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