浦添総合病院の移転「説明会なし」住民から異議 「為朝岩より高い」反発も


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前田に移転する浦添総合病院の完成予想図

 【浦添】浦添総合病院の浦添市前田の国家公務員宿舎跡地への移転を巡って、一部の地元住民が反発の声を上げている。反対理由は(1)国有地払い下げが随意契約となったいきさつで、住民説明会なしに決まったことへの疑念(2)7階建てとなる建物が景観条例に抵触する―の2点。住民の神田雪枝さん(69)は「十分な説明をしないまま強引に工事を始めようとしている」と話し、3月下旬着工という待ったなしの状況に疑問を抱いている。

  浦添総合病院を運営する仁愛会は、当初計画では4階建ての予定だった新病院を、7階建てに変更した。病院側は「救急医療としてどうしても階を減らせなかった」と説明する。建築士の福村俊治さん(68)=浦添市=は「修正がきく『基本設計』の段階で住民に説明するのが建築界の常識だ」と実施設計での説明に遅いと憤慨する。

 ■随意契約

 2015年9月、前田自治会は、仁愛会からの移転願いを受け、翌月に市長へ誘致を陳情した。ただ前田自治会の加入者は住民の1割程度にとどまる。  浦添市は16年5月「地域の合意形成も図られている」として県へ病院への国有地の転貸を要請。同年6月には、国有財産処分の手続きを担う沖縄総合事務局の意見照会に「移転は浦添市としても強く望んでいる」と回答している。同年11月、沖縄総合事務局が開いた国有財産沖縄地方審議会で「公益性が高い」と判断され、仁愛会に随意契約での売却が決定した。

 国有財産の取得は、自治体などが要望した場合、財務局の審査などを経て契約を結ぶことになる。一方、要望がない場合は一般競争での入札となり、高値がつくのが一般的だ。審査項目には「施設整備に関する地域住民などからの要望状況」がある。

 審議会の議事録には「『災害に強いまちづくり』の実現を図るためにも、本地への移転について浦添市から強い要望があった」と記されている。また、住民の反対についての質疑では「地元住民の大きな反対はないと浦添市長からお伺いしている」と書かれている。

 ■市、質問に謝罪

 議事録の記述を元に、住民は市の関与を質問。それに対し市が文書で「当初より誘致を行ったものではない。行政判断を決定する上で総合的な判断であった」と回答していた。ただ「地域住民との合意形成を行えなかったことは行政として指導不足を痛感している」と謝罪した。  市は取材に対し「誘致ではないが、市の方針に合致しているため後押しした」と答えている。

 売却後まで仁愛会側が説明会を開かなかったのは「地元が反対していないという既成事実をつくっただけではないか」と疑問視する住民もいる。

 ■再検討促す意見

 国家公務員宿舎跡地は7階建ての建物ができると標高155・3メートルの高さになる。「浦添総合病院移設を考える会」の銘苅明美さん=浦添市=は「浦添グスクと拝所のワカリジー(為朝岩)は住民のシンボルのような存在だ。(それを超える高さの建設は)魂を侮辱している」と怒りをあらわにする。

 市の「浦添市景観まちづくり審議会」が今年1月、再検討を促す意見を市長に示した。これを受け市長が、審議会の意見を反映するよう仁愛会に依頼している。仁愛会は「住民の一部にしか伝わらず、反省している。今後は時間を持って意見を聞きたい」と話した。

 新病院は3月下旬着工、23年6月完成を目指している。(古川峻)