【本部】毎年4月上旬まで沖縄近海で楽しめるホエールウオッチングは、観光で注目を集める一方、5年ほど前までザトウクジラの生態のほとんどが明らかになっていなかった。県内唯一のクジラ研究機関、沖縄美ら島財団総合研究センター(本部町)は、30年以上かけた地道な研究により、回遊経路の特定や繁殖行動の最盛期を明らかにしてきた。
21年間、行動観察
研究センターは沖縄に来遊するザトウクジラの群れの構成を分類し、行動観察を21年間続けた結果、交尾行動が1~2月下旬に最盛期を迎え、約1年の妊娠期間を経て出産は2月中旬以降に多いと推定した。
昨年はロシア、沖縄、フィリピン間を回遊するザトウクジラが北海道を経由することを明らかにした。
「ゼット、ゼットがきたよ」。調査員の一人がそうつぶやいた。ゼットは愛称で、尾びれにアルファベットのZの模様があることが名前の由来だ。警戒心が強く、近づくとすぐに潜ってしまい遠く離れてしまう。観察が難しい「調査員泣かせ」のクジラだ。
飼育が困難なクジラは、繁殖行動や摂餌行動を直接観察することが難しい。研究員らは生活圏に足を運んで尾びれや背びれの撮影、観察時の水深、海況、位置情報などを細かく記録する。識別できる個体数は約1800頭に及ぶ。岡部晴菜研究員は「集めたデータで分かったことは事業者らに伝える。人とクジラの良好な関係につながる」と研究の意義を語る。
毎年1月中旬から3月まで計30日海に出る。北部ホエールウオッチング協会加盟の船と連絡を取り合い、出現場所に向かう。蓄積、解析した記録を国内や海外の研究機関と共有して研究を進める。
船とクジラの衝突事故は世界でも問題となっているが、尾澤幸恵調査員は「集めたデータで行動パターンを把握し、今後(衝突事故の回避など)クジラの保全につながるかもしれない」と語る。小林希実研究員は「クジラ間でも方言があるのではないか。DNAを使った研究で、種の多様度が分かるかもしれない」と展望した。
(喜屋武研伍)