「もう時間がない」92歳元学徒が危機感を示した理由 教科書の沖縄戦表記で会見


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会見を開いた「元全学徒の会」の(左)與座章健共同代表(中)瀬名波栄喜共同代表(右)宮城政三郞幹事=1日、那覇市首里金城町の養秀会館

 「世の中の動きが戦争を肯定するような方向に動きだすのか、非常に心配でならない」「戦争を美化するのは大義のない戦争への反省がないからだ」。「明成社」の高校教科書で、沖縄戦で犠牲となった学徒らを慰霊する「一中健児之塔」の写真説明に「戦没学徒の顕彰碑」と記した問題を受け、沖縄戦に動員された元学徒や戦争体験者らが1日、記者会見で声明を発表した。太平洋戦争へと向かう中で戦死した軍人を顕彰した時代の流れに重ね、軍国主義回帰への強い危機感と懸念を示した。

 戦時体制下で沖縄の師範学校や中等学校は軍国主義化され、皇民化教育が徹底された。戦死した軍人をたたえる忠魂碑が学校や県内各地に造られ、戦意高揚に利用された。1943年、ガダルカナル島の戦闘で戦死した大舛松市大尉は県立第一中学校出身だったため、学校当局が先導し「軍神大舛大尉に続け」を合言葉に、熱狂的な顕彰運動が展開された。

 こうした流れの中、県内21の師範学校と中等学校から1900人が、男子は「鉄血勤皇隊」や「通信隊」として、女子は看護要員として14歳から動員され、千人以上が命を落とした。学徒以外の死者も含めると2千人以上になる。一中元学徒で「元全学徒の会」共同代表の與座章健さん(92)も鉄血勤皇隊として砲煙弾雨の中、電線修復や食糧庫の見張り、陣地構築など危険な任務に当たった。「とことん戦争の恐ろしさをたたき込まれた」という與座さんは戦後、生き残ったことに負い目を感じながら、不戦と平和への切実な思いを次代に語り続けてきた。

 與座さんは「顕彰」を「軍国主義時代に帰った言葉だ」と指摘し、そうした言葉をやすやすと使う、今の時代の流れに深刻な懸念を示した。「意味を知っていて使うのであれば大変なことだ。僕らが何とかしないと大変なことになる。また戦争が起こるんじゃないかと」

 「元全学徒の会」幹事を務める、宮城政三郎さん(92)も「われわれは軍国主義の犠牲者なんですよ。『英霊』とか『名誉の戦死』という言葉は戦争をしかけた軍人の言葉であって、われわれが言う言葉ではない。国のため、天皇のために死ぬのは間違っているのに『英霊』ではない」と強調した。

 同会共同代表の瀬名波栄喜さん(92)は「誤って捉えられたことが、歴史の本に記載されたことが問題だ。歴史教育がどうあるべきかを訴える必要があると思う。歴史は真実を明かさなければならない」と訴えた。

 会見時間は30分。少ない時間の中で言葉を懸命に紡いだ。「私たちはもう90歳以上。時間がないんです。若い皆さんにぜひ言っておきたいことがある」と切り出した宮城さんはこう続けた。「先の戦争は大義のない戦争、侵略戦争なんです。侵略戦争という間違った国策のために、なぜ死なないといけないか。戦後76年、いまだに戦争を美化するようなものが出てくる原因は、大義ない戦争への反省が全くないか、あるいは弱いからだ」

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