【詳報】選択的夫婦別姓を考えるイベント 「せやろがいおじさん」ら白熱議論


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 選択的夫婦別姓を考えるトークイベント「SDGsってナニ? ジェンダー平等ってなんですか~?」(主催・選択的夫婦別姓・陳情アクション沖縄、琉球新報社)が3月20日、那覇市のbook&cafeゆかるひで開かれた。望む人が別姓を選ぶことのできる法制度を求め、当事者や起業家、法律家らが改姓体験から法律や戸籍、反対する人の「本音」まで、白熱した議論を繰り広げた。司会は芸人の「せやろがいおじさん」こと榎森耕助さん。当日の動画はユーチューブで公開している。https://youtu.be/qIO7RFRuy9o

 

誰もが自由な社会を

 

トークイベントで選択的夫婦別姓について議論する、お笑い芸人のせやろがいおじさん(手前)と出席者=3月20日、那覇市久茂地のブックカフェ&ホール「ゆかるひ」

改正ゆえの苦労

 榎森さん 井田さんへ、再婚して子どもと姓が違うと聞いた。

 井田奈穂さん 初婚時は知識もなく夫の姓に変えた。19年して離婚し、姓を戻そうと考えたが子どもは姓を変えたがらなかった。同じ戸籍のメンバーは同じ姓にするのが原則で、別姓にするなら親子でも戸籍を分ける。弁護士に別戸籍でも問題ないと聞いたが、自分も20年近く使った姓だからと、前夫の姓を使い続けた。

 事実婚を経て再婚することになり、今の夫に前夫の姓を名乗らせるのもきついだろうと、自分がまた改姓した。子どもたちは変えたがらなかったので戸籍を分けた。自分と夫が夫の姓で、子どもたちは前夫の姓で1世帯に2戸籍がいる。初婚時に改姓せずに済めばこんな苦労はなかった。

 

旧姓使用の煩雑さ

 榎森さん 旧姓使用をしていたのか。

 波上こずみさん 結婚した時は勤め人だった。(夫の姓に改姓したが)旧姓でキャリアを積んできたので旧姓使用を申請した。通常は旧姓で問題ないが、公的予算を使うときや旅費は戸籍名で申請し、旧姓許可書を添付して決裁まで必要になる。こんなに煩雑なのかと驚いたが、男性上司にはその苦労は理解されない。

 4年目に子どもが生まれて新姓に統一した。すると旧姓でやりとりしていた人が自分を見つけられず、旧姓を知らない同僚が電話をつながないこともあった。積み上げたキャリアや人脈をなぜ女性だけが遮断されるのかともやもやした。

 榎森さん 住所変更や財布を落としたときはめちゃくちゃめんどくさい。その手続きをほぼ女性がしている。やらなくて済むのは男性の特権だと認識して別姓議論をした方がいい。

 

事実婚

 榎森さん 事実婚をしている林さん、法律婚との違いは。

 林千賀子さん 互いに自分の姓が嫌いでなく、相手に嫌なことを無理強いしたくなくて籍は入れていない。要件があれば法律婚と同等の保障は増えているが病院が家族として付き添わせないこともある。決定的な違いは相続。どんなに協力し合っていても籍がなければ相続人にならない。遺言がなければ何ももらえず、遺言があっても贈与税と相続税では金額が違う。結婚したくても同姓にするところで悩まなければならない。

 井田さん 事実婚で不妊治療を断られる、介護施設に夫婦として入れないなどの困りごとがあると聞いている。(夫婦別姓を)望む人が結婚をためらうのが一番の問題だ。

 

長男の立場から活動

 榎森さん 長男の立場で、うるま市議会に請願書を出すなどの活動をした。

 眞榮里良人さん うるま市平敷屋出身で長男家系の6代目。7年前に父が他界しトートーメーやお墓も管理している。夫婦別姓を選べず苦しむ人がおり、選択肢を増やすだけで幸せになるならその方がいいと活動した。

 市議会は2019年、選択的夫婦別姓を国に求める意見書を可決した。その前には議会の各会派で勉強会を開いてもらい話をした。相続や位牌(いはい)継承についての漠然とした質問が多かったが「名字が別だと離婚しやすくなるのでは」と正直に話してくれた議員もいた。

 榎森さん 名字変えるのが面倒で離婚しないなんて、そんなさみしい結婚があるのか。心がつながっていれば別れないのでは。

 

血の通った「絆」があれば
 

トークイベントで選択的夫婦別姓について議論する出席者

相続などの法律問題

 榎森さん 法律で、親と姓が違うと相続できないなどの問題があるか?

 西端裕子さん 弁護士として多くの相続相談を受けるが、女性が嫁いで姓が変わると相続権を失うという誤解が全国各地にある。日本国憲法の下で民法が改正され、子どもはみな平等に遺産相続すると決まった。昔の家督相続とは違うが、まだその誤解が残っている。相続は別姓と法律的に関係なく、別姓に反対する理由にはならない。

 林さん 結婚で姓を変えた方が離婚時に旧姓に戻すか今の姓を使い続けるか、100%自由に決められて相手の同意はいらない。それなのに相手に姓を「変えるな」「変えろ」と求めてもめることがある。結婚で改姓して大変な思いをし、離婚でもまた変えるか変えないか、大変な人がいることに思いをはせてほしい。

反対する人の本音

 榎森さん 「選択的」なのに反対する人の本音は何か。

 井田さん 一つは慣れ親しんだものを変えるのが嫌。二つ目は女系天皇につながることを嫌がる。三つ目は女性蔑視。妻子が夫に従属する社会でなければ自分が脅かされるという恐れがある。自分が苦労したことは他の人にも経験してほしいという人もいる。

 あとは年賀状で名前を間違えると嫌だとか、結婚式場で何と呼んでいいか分からないとか。名前も知らない程度の第三者が、相手のアイデンティティーまで奪って名前を変えろと求めるのは相手の尊厳に介入した「悪いわがまま」だ。

 波上さん 組織開発のコンサルティングで、変化を呼び掛けると一定層が抵抗する。すべて自分が把握しコントロールしたい人が、変化後の世界で責任を取れるのか恐れや不安から抵抗していると感じる。今回も改正後がイメージできず不安なのでは。

 

同姓で「絆」?

 榎森さん 自分が所属していた事務所は昨年まで給料袋を手渡しだった。厚みでもうけが分かるので、薄い時はせんべいを入れてくれた。振り込みにしてと頼むと「手渡しで絆ができる。なくなったらどうするか」と。別姓も同じで変えた後の不安が大きい。

 新垣誠さん クラスTシャツを作るのは、ばらばらの人たちに人工的な絆をつくるため。家族は毎日一緒に暮らし、話をして互いに愛情が生まれる。戸籍も歴史的には富国強兵で戦争をするための仕組みだ。一部の議員が言う「絆」は形だけで血が通っていない。

 榎森さん 精神的なつながりを可視化したいのかもしれないが、振り込みでも絆は感じる。別姓でも心のつながりがあれば自信を持てる。

どう行動するか

 榎森さん 選択的夫婦別姓に賛成だが、どうしていいか分からない人たちに助言を。

 井田さん 望まない改姓や(選択肢が夫婦同姓しかないから)結婚できない人のいるのは生活上の困りごと。イデオロギーではない。解決は政治の問題だ。地元の議員に話せば理解してくれる人も多い。有権者として投票した人に「困っている」「変えてほしい」と声を届けてほしい。戸籍や相続は専門家に相談して。

 榎森さん 議員は「地元のおじちゃん/おばちゃん」で意外に話を聞いてくれる。時間を取ってごめんと謝ると「困りごとを聞いて解決するために報酬をもらっている」と。果物を買いに果物屋に行くように、気兼ねなく声を届けていこう。

 


 

【基調講演】ジェンダー平等へ第一歩 新垣誠さん(沖縄キリスト教学院大教授)

 

新垣 誠さん(沖縄キリスト教学院大教授)

 男性は一家の大黒柱として家族も顧みずに働き、女性は家事育児で家を支える、そんな男らしさ、女らしさで縛るジェンダー規範がかなり強い力で私たちを縛っている。日本の伝統というが、これを根付かせたのが明治時代の家父長制で、たかだか100年だ。

 家父長制は、父親が絶対的な権力を持って家を支配・コントロールする家族のあり方だ。この家制度に基づく意識は沖縄も非常に強い。(性別にとらわれず自分らしく生きることを目指す)ジェンダー平等は日本では国際的にもかなり遅れている。これらの問題を国際社会と一緒に解決していこうというのがSDGs(持続可能な開発目標)で、その一つにジェンダー平等がある。

 選択的夫婦別姓について昨年度県が行った県民意識調査では、男女含めて5割以上が賛成し、女性では7割近くになった。勘違いする人が多いが、ポイントは「必ず別姓にする」のではなく「別姓も選べる」こと。各自が選べる自由な社会に、早くなってほしい。


◇基調講演

 新垣誠さん(沖縄キリスト教学院大教授)

◇パネルディスカッション

 波上こずみさん(コズミックコンサルティング代表)

 西端裕子さん(沖縄弁護士会、とみしろ法律事務所)

 林千賀子さん(沖縄弁護士会、ゆい法律事務所)

 眞榮里良人さん(選択的夫婦別姓・全国陳情アクション沖縄メンバー)

 井田奈穂さん(選択的夫婦別姓・全国陳情アクション事務局長)

◇司会
 せやろがいおじさん(榎森耕助さん)