沖縄県の決定に憤り、失望…「遺族の声聞いて」 糸満土砂中止命令見送り


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 「(米須の土砂採取で)精神的な被害を受ける遺族が、何の意思表示の機会も与えられないままに決められた」。玉城デニー知事は16日、糸満市米須の土砂採掘で業者に対する禁止や制限の措置命令を見送った。会見場となった県庁6階の会議室には、県に禁止や制限の命令を求め続けてきた沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」の具志堅隆松さん(67)や市民ら約10人も座った。表情は沈み、遺族の声に耳を傾けないままの県の決定に憤りや失望の声が漏れた。

糸満市米須の土砂採掘で業者への措置について発表する玉城デニー知事(右端)と発表を聞く具志堅隆松さん(左端)=16日午後2時すぎ、県庁

 正午から県庁前で集会を開いた市民ら約70人が、午後1時半から県庁で会見が開かれると聞き、詰め掛けた。会議室の中や廊下にも市民や報道陣、職員が集まり、密集状態に。廊下の隅に腰を下ろした佐々木弘子さん(80)は「沖縄戦当時5歳だった。両親が戦争で亡くなり、幼い頃は魂魄(こんぱく)の塔で祈った。いてもたってもいられなくなり来てしまった」と知事を待った。

 県は新型コロナ対策として、急きょ1階ホールのモニターで同時中継を始め、県職員が会議室の市民らに移動を促した。「知事にエールを送りたい」「遺族だからこそ残って聞きたい」と求める市民に、照屋義実副知事が移動を呼び掛けて回った。

 予定時刻を過ぎて始まった会見で、具志堅さんは知事から数メートル離れた場所で見守った。腕を組んで時折首をかしげ、何か言いたげな表情を浮かべた。

 「工事が始まる可能性もあるのか」。記者の質問に県環境部の担当者が「法令上は制限期間を今日で終了するので着手は可能だ」と答えると、市民から「なんで」と悲鳴に近い声が上がった。会見の最後、知事が「条例の制定も検討する」と述べて退出する際には、市民から「知事、頑張ってよ」との声も上がった。

 知事の会見後、記者団の取材に答えた具志堅さんは「ウチナーンチュの肝心(ちむぐくる)、祖先を大切にする心がお金で売り渡されてしまうのか、と心配していました」と会見中の心情を明かした。会見で遺族や具志堅さんに発言の機会が与えられなかったことに「置き去りにされた感じがした」と語り「(米須の採掘予定地の)せめて斜面部分は触らないで残してくれ、というのが私の考えだった。県に考えを述べる機会もなく、何より遺族の声を聞いてほしかった」と悔しそうな表情を浮かべた。

 具志堅さんは防衛省と厚生労働省への働き掛けで、本島南部の土砂採取と基地建設への使用が断念されなければ、6月23日の「慰霊の日」に糸満市摩文仁の平和祈念公園で、8月15日に東京でハンガーストライキをすると表明。「本土の遺族にこの問題を知ってほしい。県議会の決議が民意の表れだ。私たちの背中を大きく押すものだ」と前を向いた。