覚醒剤や大麻所持などの疑いで高校生の逮捕が相次ぎ、教育界は再発防止に向けた取り組みを迫られている。依存症に詳しく、那覇少年鑑別所の嘱託医を務めている西村直之医師(精神科)は「『ダメ。ゼッタイ。』というような恐怖による教育では現状を変えられない」と訴える。
海外で大麻が合法化され、国内でも大麻成分を使った商品が売られるなど、大麻を「安全」とする情報はネット上に氾濫している。西村医師は「いくら『危険だ』と言っても、それを打ち消す情報が社会にあふれている。漠然と危険性だけを強調しても、ピントがずれる」と指摘する。
西村医師によると、日本で出回っている大麻の多くは、さまざまな薬物を混入させた「ダーティー・マリファナ」。海外では死亡例もあり、合法化された地域でも対策に追われているという。「国内で手に入れた大麻は、誰かの命を奪うかもしれない危険なものだ」と、何が「危険」かを具体的に解説する。
相次ぐ高校生の逮捕から危惧されるのは、高校生を含む10代の若者の間で、既に薬物がまん延している事態だ。「『ダメ。ゼッタイ。』と訴えても、既に使ってしまった人に『ダメ』というレッテルを貼るだけだ」と、くぎを刺す。
県教委は26日以降、特設授業を開くよう各学校に求めている。乱用防止のための教育には何が必要か。
目を向けるべきなのは、薬物そのものではなく、日常的に直面する子どもの問題だという。「なぜ薬物乱用へ走るのか、トータルで考え、子どものメンタルケアをしないといけない。薬物だけをぶつ切りにして教えても伝わらない。子どもの抱える問題ベースの教育にしないといけない」と訴える。
西村医師が提案するのは、座学ではなく「ロールプレイ」。「問題に直面した時にどう対処するのか、子ども自身が考える必要がある。居場所が無くなった時や暴力にさらされた時。自分でシミュレーションして、助けを求められるかどうかを考えてほしい」と助言する。「正解はいらない。理屈で正しいとかでもない。『これで大丈夫。自分は守られている』という感覚が危険を遠ざける」と語る。
学校での教育に注目が集まっているが「本質はそこではない」とも強調する。
「逮捕されたのは子どもだけれど、薬物を渡したのは誰か。子どもの知識不足が招いた事態ではない。教育しないといけないのは、大人だ」
(稲福政俊)
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