僅差の選挙戦、現職後継の中村氏が勝利した背景とは?<市民の選択>(上)


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一進一退の開票状況が伝えられる中、緊張した面持ちでテレビ画面を見つめる中村正人氏(中央)=25日夜、うるま市みどり町の選挙事務所

 うるま市長選投開票日の25日夜、中村正人氏(56)が、選挙事務所に姿を見せたのは午後10時すぎだった。スタッフから開票速報が随時届けられたが、照屋氏とずっと競っていた。当選が確信できたのは午後11時すぎ、投票者の過半数2万7千票に届いた時だった。それまで固かった中村氏の表情が緩んだ。最後まで勝敗が読めない選挙だった。

 票差は1862票。4年前の市長選で現職の島袋俊夫市長と山内末子氏の選挙戦では5753票差だった。それにに比べかなり差を縮めた。背景に、新型コロナウイルス感染症対策や経済振興、雇用問題などで、中村氏と照屋氏の政策は重なる部分が多く、争点がはっきりせず「市政の継承か刷新か」という点に争点が集約されていったことにある。中村氏は「島袋市政を継承し、発展させていく」と繰り返し主張。一方の照屋氏は「合併から16年がたつが、市民が当初期待した発展とは程遠いのが実態だ」と指摘し、市政刷新を訴え、選挙戦に臨んだ。

 コロナ対策で照屋氏は中村氏に比べ、より踏み込んだ政策を提言。「コロナ禍で解雇や雇い止めされた世帯には10万円、経営が厳しい事業者へは最大20万円給付する」と打ち出し、市民の関心を引き付けた。「照屋氏の政策は魅力的だ」と述べる中村支持者の声も聞こえた。しかしそれでも、市民は市政の継承を選んだ。

 告示直前の15日、県内ではいち早く、津堅島で新型コロナのワクチン接種が実施された。早い段階で体制を整えた島袋市長の成果の一つだったが、中村氏は「島袋市長の後継者で、コロナ支援策を要請した」とアピール。自分への投票が市行政の安定につながるとし、支持拡大への足掛かりにした。先行きが見えないコロナ禍で、さらなる変化を市民は避けた結果となった。

 選挙戦で中村氏は「コロナの影響を受けたあらゆる事業者を支援する」と訴えたが、具体的な手法や数字は示していない。実行力やスピード感を求められる中、県内でも高い失業率や、所得の低さなどうるま市が抱える課題は多くある。自認する「現場主義」の手腕が問われる。

 (砂川博範)