【識者談話】改憲ありきの改正国民投票法 欠陥部分の改善せず 髙良沙哉(沖縄大学教授)


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髙良沙哉氏

 国民投票法改正を巡る問題は多岐にわたるが、必要な議論が十分尽くされず、国民の理解も得られないまま政治決定される点が最も問題だ。長引く新型コロナウイルス禍も重なり、市民の命や暮らしを守ることが政治判断の最優先事項であるにもかかわらず、同法の改正を足掛かりに、安倍政権時からの悲願である改憲への動きを加速させたい与党の思惑が透けて見える。今、何が必要なのか、国民の肌感覚を全く理解していないと言わざるを得ない。

 国民投票法の改正は改憲が前提で、改正案の成立は改憲を進めたい与党への追い風になる。2007年の成立当初から欠陥法と呼ばれる同法だが、今回も内容は精査されず、改憲手続きの形式のみの改正になっている。このまま本格的な改憲の議論に突入するのは非常に危うい。

 自民党が掲げている改憲4項目には自衛隊の明記や緊急事態条項など、現行の憲法の基本原則を揺るがし、憲法改正の限界を超えると考えられる改正が目指されている。自衛隊の明記は、自衛隊基地の配備強化がなされている沖縄にとって軍事的な危険が高まるものである。自衛隊と米軍との協働関係が強化されている現状では、米軍との関係でも基地負担や、危険がさらに増すと考えられる。

 今回の国民投票法改正案は、最低投票率の定めがなく、憲法違反の改正がなされた場合の対抗手段が規定されていないことなど、国民投票法そのものの欠陥が改善されていない。沖縄からは、国民投票法の重要項目の改正になっていないことを踏まえ、これが憲法改正論議の加速につながらないように警戒する必要がある。
 (憲法学)