全国初!琉大に実物大の試験橋 塩害や台風の腐食を調査


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
試験橋の前に立つ琉球大学工学部の下里哲弘教授(左)と同大工学部の学生ら=10日、琉球大学工学部付属地域創生研究センター

 沖縄特有の塩害と台風による橋の腐食などへの影響を調べようと、琉球大学工学部付属地域創生研究センターに長さ約10メートル、幅約4.6メートル、高さ約1.5メートルの実物試験橋が設置されている。2020年夏に完成し、大学構内に同規模の試験橋が造られるのは全国で初めてとみられる。学生らは「実物に触りながら学べるのはとても貴重だ」と語った。下里哲弘教授は「沖縄ならではの防食技術を発展させ、メンテナンスの知識を持つ人材を育成すれば、地場産業の振興につながる。沖縄の橋を沖縄独自の技術と人材で守れるようになる」と期待を膨らませる。

 下里教授によると、沖縄の公的建造物(インフラ)がさびる速度は、日本全国の海岸線と比較すると5倍から10倍速い。下里教授は「本土と同じように橋を造ってメンテナンスをしても、腐食は沖縄の方が速い。限られた予算と人材でインフラを維持するために、沖縄の特徴を踏まえた技術開発が重要だ」と指摘した。

 試験橋はさまざまな素材や塗料を使い分けて「わざとさびさせながら」(下里教授)、塩害や台風の影響などを調べる。特徴の一つが、橋の端部がステンレス鋼でできていることだ。

 橋は端部からさびていくためステンレス鋼を使うことで、さびを防げる可能性がある。一方、橋全体をステンレス鋼にするとコストがかさみ、実用化が難しい。そのため試験橋は、ステンレス鋼よりさびやすく安価な炭素鋼を端部以外の部分で利用している。腐食速度や状態などを研究し、ステンレス鋼と炭素鋼を利用した橋の可能性を探る。

 橋の下部分で、さびにくいアルミやステンレスなどで覆う「多機能防食デッキ」について、台風襲来時の風圧にどの程度まで耐えられるかも調べている。常設の足場にも使える多機能防食デッキは近年県外でも使用が進んでいるが、巨大台風下での風圧に耐えられるかどうか、十分な検討が進んでいないという。調査結果は沖縄総合事務局と県土木建築部が監修する「沖縄地区鋼橋防食マニュアル」に反映し、今後、橋の設置や補修工事に生かす予定だ。

 試験橋は「実物試験橋を用いた鋼橋強靱化プロジェクト~沖縄地区鋼橋防食マニュアルの課題解決~」(実施主体・琉球大学)の一環で造られた。研究費約2千万円を投入したほか、県内外の協力企業14社からの材料、技術支援のもと完成した。

 下里教授は「沖縄の持続的な発展のためにも、どんどん研究を進めたい」と意気込みを語った。
 (嶋岡すみれ)