【識者談話】身近な存在となった大麻、今必要な教育とは? 西村直之氏(精神科医)<高校生薬物調査>


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西村直之医師(精神科医)

 薬物乱用防止教育を考えるとき、彼らの新しいものへの興味を否定し、同調圧力(マイノリティー集団ほど強い)の強烈さを考慮せず、知識や恐怖だけを強化しても価値観や行動の変化は期待できない。若者は善悪よりも、自分を解放できる感覚が行動選択に強く影響しやすい。孤独や痛みを抱える子どもほど薬物は役に立つ。その子を助ける・信頼を寄せられる大人や伴走者がいなければ、薬物はそれ以上の意味や価値、役割を果たし、手放し難いものになる。

 アンケート結果からは、大麻という“新しいもの”に対する彼らの素直な反応が見える。世界的に大麻の合法化・実質的な黙認状態が広がる中で、大麻はピアスやタトゥーなどとあまり変わらないファッションアイテムと捉えられつつある。これは時代的な感覚であり、「許容的な考え方=誤った考え方」と否定すれば、相互理解はできない。

 個々の事情を踏まえた見守りや手助けの提供を前提に、以下のような教育が必要だろう。

 まず彼らの身近な存在となった大麻について「なぜ個人の自由と思うのか」「なぜ使ってはいけないとされているのか」など、自由に話し合う。次にネット上のさまざまな情報を基に出来上がった自己解釈をみんなで整理し、「大麻の事実」と「大麻の価値と危険」を広い視点で考えてもらう。その中で医療用大麻と闇市場で販売される大麻の違い、若年使用の危険性など正しい知識を基にした身近な問題として理解されることが大切だ。

 自由な議論を土台に、例えば「友達に強く勧められて、断ると仲間外れにされそうなとき」「使わないとイライラして手放せなくなったとき」「友人が使っているのを知ったとき」などのさまざまな具体的場面を設定して、法律の視点に偏らず、自分たちの“今”に大麻は必要なのか、何ができるのかなどをロールプレイで考え、学んでもらう。

 これらの教育も、学校に通うことができている子どもたちには有効だが、学校に通えない、辞めてしまった子には届かない。学校にうまくなじめない子どもこそ薬物問題と遭遇する危険性が高い。そのためにも義務教育中のより記憶に残る教育や、緊急で助けを求められるホットラインなど、彼らが握ることができる命綱を準備することが必要だ。駄目なことをした子どもたちという烙印(らくいん)(スティグマ)が生じる教育だけは絶対に行ってはいけない。