「ゆいまーる」にも男女格差 沖縄でシングルマザーが疎外される実態


この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子
シングルマザーは相互扶助の共同体から疎外されていると指摘する平安名萌恵さん=14日、琉球新報社

 立命館大学大学院の学生、平安名萌恵さん(26)が、シングルで子育てを経験した20~80代の県内女性の生活史インタビューに取り組んでいる。インタビューを重ねて見えてきたのは、相互扶助の精神が強いと思われている沖縄の共同体からシングルマザーが疎外されている実態だ。「『ゆいまーる』にもジェンダー格差がある」と指摘する。 (稲福政俊)

 平安名さんは高校を卒業後、静岡文化芸術大学に進学した。平安名さんは県外で「沖縄の女性は(性に)奔放」という印象があることに違和感を覚え、アートを専攻しながら社会学の視点で沖縄女性の表象を研究した。大衆雑誌で沖縄の女性が水着で描かれたり、少女暴行事件が性的な作品のモチーフにされたりと、メディアによって「奔放」な印象が植え付けられていた。安室奈美恵さんら県出身アーティストの登場により、それらの表現は下火になっていくが「なくなったのではなく、潜在化しただけだ」と見る。

 相互扶助的でおおらかな共同体を前提とした、「自由」で「奔放」に産み育てるという「沖縄のシングルマザー」像は、実態とは異なるイメージから導かれているのではないか。生活者の話を聞いて言語化する必要があると考え、生活史インタビューを始めた。支援者から当事者を紹介してもらい、その後は雪だるま式に対象者を拡大した。これまでに45人を超えるシングルマザーをインタビューした。

 インタビューを通し、相互扶助の共同体で支援を受けるのは男性で、シングルマザーは疎外されていることが分かってきた。男性は家族や親戚から全面的に支援を受けるが、シングルマザーは「できる範囲で」支援を受ける。ある女性は家賃を払って祖母の家に住んでいたが、同じ家に住む無職の叔父は家賃を免除されていた。実家から離れ、かつ相手の家庭にも入れないシングルマザーは、生活面で関わりを持っていたとしても、経済的な支援を受けるのが難しい。
 女性が妊娠した時、「自分の人生だから(産むのは)いいんじゃない?」という言葉が投げ掛けられがちだという。自由な選択の「尊重」という肯定的な印象の裏に、支援が途切れる未来が潜む。「優しい言葉に聞こえるが、恐ろしい言葉だ」と感じる。

 河野太郎沖縄担当相は、琉球新報などの共同インタビューで「母子世帯でも周りの家族や親戚が支えてくれることがあって、やってこれている部分がある。そこに甘えちゃだめ」と述べた。実態を度外視したイメージは、支援の計画を立てる担当大臣をもむしばんでいる。

 シングルマザーの生活の厳しさは、高齢になっても続くという。「低賃金で働いていたため、年金はすずめの涙のような額だ。高齢になると、収入が見込める職もほとんどない。子どもが安定した職に就いていれば支援が見込めるが、そうでない場合が多い」。子育て中だけでなく、その後も貧困から抜け出せていない。

 「シングルマザーはたくましく生きているとは言えないけれど、ただ従属的、悲観的に生きているとも言えない。その辺はまだ言語化できていない」。シングルマザーの生活に踏み込んだ研究は続く。