元新国立劇場演劇研修所所長で、人気の若手からベテランまで役者の舞台演出を精力的に手掛ける栗山民也が5月半ば、演劇教室のため来県した。栗山に、演劇教室を開催する背景と活動を通して受講者へ伝えたいことを聞いた。(聞き手・藤村謙吾)
―2005年の新国立劇場演劇研修所の開校時に所長を務めたほか、県内では2003年に演劇教室を開いている。演劇教育に力を入れるのはなぜか。
「2000年に新国立劇場の芸術監督になったとき公共での演劇教育はなかったが、芸術監督の仕事で一番大事なのは、人材育成だと思った。その後、文化庁から予算が出た。行政が演劇というジャンルでも教育が必要だと認めたのだろう。(2005年に新国立劇場演劇研修所ができ)今も続いている。東京だけではなく、いろいろな所で演劇教育が必要だと思い活動を続けている」
―新型コロナウイルス感染症は活動にどんな影響があったか。
「コロナの影響で一時舞台も全部中止になったが、幸い複数の公演ができた。ことしの1月に東京を皮切りに始まった舞台『フェードル』で金沢を訪れた際、カーテンコールでは観客も総立ちで、これまでにない熱気だった。(感動が伝わり)人間は感動を忘れてはいけないと、あらためて感じた。感動する感情は何もしなければ、減少していく。だから、常に感情を育てないといけない。人間同士のぶつかり合いや恋、日常ではあり得ないことが起こる演劇は、全てが濃密で、感情を成長させてくれる」
―演劇教室で、どのようなことを伝えていきたいか。
「教室では舞台上の歩き方をはじめとした基本を教える。一方で、教育とはただ知識を伝えるだけでなく、出会いを広げてあげることだと思う。僕がしゃべり、(受講者の)世界を広げる。また、タイミングが合えば名優の稽古も見せてあげたいので、(受講者は)東京に来たときには連絡をしてほしい」
「僕は人間であることを忘れないために、演劇をやっている。それを若い人にも伝えたい。俳優は、自分の声と体で世界を表現できる職業。新しい作品との出会いを通して、新しい世界にも出会える。演出家として、一人でも多くの人間と、この素晴らしい体験を分かち合いたい」