當銘カヌー五輪代表に 作戦的中、大差で制す 大城は8位、代表ならず


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カヌー東京五輪代表選考会 スプリント男子カナディアンシングル1000メートルで優勝した當銘孝仁=30日、石川県小松市木場潟カヌー競技場(新潟日報社提供)

 カヌー・スプリントの東京五輪代表選考会は30日、石川県の小松市木場潟カヌー競技場で行われ、男子カナディアンシングル1000メートルの當銘孝仁(沖縄水産高―大正大出、新潟・三条市スポーツ協会)が4分1秒343で1位になり、一枠の開催国枠で初の五輪代表に決まった。2位との差は3秒635。大城海輝(沖縄水産高―鹿屋体育大出、三重県スポーツ協会)は4分22秒630で8位だった。

 失意乗り越え大舞台へ

 「っしゃー!」。後続に2艇身以上の差を付ける独走でゴールした當銘孝仁が、2度ほえた。高校の後輩である大城と組んで出場し、僅差で五輪切符を逃した痛恨のアジア予選から3週間あまり。

 「応援してくれる人がいなかったら、自分はアジア予選でやめていた。単純にうれしい。ほっとした」。トレードマークのひげの間から白い歯がのぞいた。

男子カナディアンシングル1000メートルで東京五輪代表に決まり、笑顔で取材に応じる當銘孝仁

 艇の右側でパドルをこぐ當銘にとって有利な右からの風が吹く中、「左側でこぐ選手は後半により苦しくなる」と展開を読み、スタートからレースを引っ張った。「要所要所でプレッシャーになる」と500メートル付近で抜け出し、さらに残り200メートルでラストスパート。「これがはまった」とリードを広げた。

 アジア予選では力を出し尽くし、レース後に倒れて病院に運ばれた。「気持ちを保つのが大変だった」と失意に沈んだが、周囲の応援を受け、もう一度顔を上げた。「自分はあまり前評判が高くなかったけど、それを見返したいという思いが強かった」。持ち前の強い競争心を取り戻し、代表の座を射止めた。

 沖縄水産高でカヌーを始めて15年近く。「一つ夢がかなった」と声を弾ませる。本番は2カ月後。メダル獲得に向け「やってきたことを繰り返し、できることを精いっぱいやりたい」と足元を見詰める。長年目指してきた大城との五輪出場はかなわなかったが「自分が出ることで県勢として一矢報いることはできた」。沖縄の期待を一身に背負う28歳が、大舞台で栄冠をつかみにいく。

男子カナディアンシングル1000メートルで8位に終わった大城海輝(右)。左は1位の當銘孝仁

 大城、風に泣き明暗

 「これまでの練習が完璧で、調子も良かった」という大城海輝にレース前に確信がよぎった。「これは勝てる」。しかし、スタート直前に競技場の環境が暗転する。それまでほぼ無風だったが、左こぎの大城にとって不利な右からの風が吹き始めた。「かじを取る必要もあるから、より力を使うことになる」

 不安は的中。大城を含めた左こぎの選手は伸び悩み、自身も8位に沈んだ。代表切符をつかんだのは長らくペアを組んできた當銘。相棒と明暗が分かれたが「一緒にやっていたので、良かった」と一つ違いの先輩を祝福した。

 「自然が相手の競技。悔しさはない」と潔い。三重県スポーツ協会に所属し、秋には三重国体が迫る。「まずは国体に向けて頑張っていきたい」と照準を切り替えた。