【記者解説】土地規制法案、政権の一存で「罪」が決定 買収自体は防げず


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国会議事堂

 土地規制法案は1日に衆院を通過したが、これまでの審議では立法事実や規制される区域、行為があいまいなままで、生煮え感が強い。防衛施設周辺や国境離島などで暮らす住民の私権に一定の制限を課すのは確実なだけに、参院審議ではより慎重な議論と政府の丁寧な説明が必要だ。

 法案では、土地の利用方法が「機能阻害行為」と判断された場合、国の中止命令に従わなければ罰則が科される。だが、肝となる阻害行為の具体例が法律上規定されていないことが最大の問題だ。

 政府は規制対象となる行為は内外情勢や施設の特性によってさまざまだとし、閣議決定する「基本方針」で例を示す方針だ。これは何をしたら罪になり得るのかの判断を、政権に一任することを意味する。

 政府与党は、中国当局による外国船舶への武器使用を可能にした海警法を巡り、適用海域や武器使用権限があいまいだと疑問視した経緯がある。民主主義、法治国家を標ぼうする日本ならば、模範を示す観点からも、法律で例を盛り込むべきだ。

 県内でも、2016年に竹富町で中国、台湾資本による土地買収が問題となり町議会で取り上げられた。外国資本による大規模な土地買収を調べるという点に絞れば、県内でも一定のニーズがあると言える。

 だが、今回の法案に外国資本による土地買収自体を防ぐ権限はない。一方、基地周辺で暮らす何万人もの住民が調査対象となることが見込まれる。与えられる調査権限と効果が乖離(かいり)していると言わざるを得ない。

 先の大戦で沖縄では住民が日本軍からスパイ容疑をかけられた歴史もある。安全保障を理由に、私権制限を伴う立法を拙速に進めることはあってはならない。

(知念征尚)