労働条件、派遣先施設と自ら交渉…応援看護師、県に疑問 二重のリスク 応募少数「当然だ」


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勤務する施設で、防護服を付けて発熱利用者の呼吸状態を確認する平安諒也さん(本人提供)

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、県高齢者福祉介護課の応援要請に応じ、クラスター(感染者集団)が起きた本島中部の高齢者施設に先月20~31日の11日間、派遣された看護師の平安諒也さん(32)が6日までに、本紙の取材に応じた。平安さんは施設で感染者のケアや介助に当たったが、看護師や介護士の人手不足が深刻な課題だと感じたという。派遣された人が派遣先と個別に労働条件を交渉しなければならない仕組みが負担になったといい、「県が条件をある程度整備するべきではないか」と県の対応を疑問視する。

 県は、高齢者施設で集団感染が起きるなどして人手が不足した場合、県内の他の高齢者施設や医療機関に応援を呼び掛けている。平安さんの働く会社は県の一斉メールを見て応援を即断。翌日から応援に入った。

 しかし、派遣前に県から労働条件に関する情報はほとんどなかった。平安さんは、自宅とは別の宿泊場所が確保されるのか、給料や定期的なPCR検査費用は負担してもらえるのか―などと県に訪ねたが、「自分で派遣先の施設側と交渉してほしい」と答えるだけだったという。

 派遣された施設では、職員と入所者の9割が感染。入所者は医療逼迫(ひっぱく)のため入院できない状況だったため中部地区医師会と連携し、施設内で医療行為が行われた。医師は巡回で医師会から来るが、応援の看護師や介護士が圧倒的に不足していた。残った職員も濃厚接触者でいつ発症するか分からない状況だったが人材不足のため、特例で勤務に当たっていた。

 平安さんにとっては初めての集団感染の現場。ワクチン接種も受けていないため、感染の不安を感じつつも、業務の合間に施設側と時給や宿泊先、夜勤手当や危険手当、通常発生する費用はどこまで負担してもらえるのかなどを交渉せざるを得なかったという。「なぜ派遣される側が感染のリスクと労働条件の交渉と二重のリスクを背負うのか。県が基本的な条件を整えて応援を要請しなければ、応じる人が少ないのも当然では」と疑問を呈す。

 県高齢者福祉介護課は本紙の取材に「法人同士で交渉し、契約関係を結んでもらうのが課のスキーム(計画・枠組み)だ。介護報酬の中から給料が払われることになるので、県が口出しできることではない。そういう法制度もない。国が介護士の派遣に関して法整備をしてもらえるなら、そのほうがいい」と説明する。

 施設では少ない時で、日中は看護師と介護士計4人程度、夜勤は計2人程度で勤務した。午前9時~深夜0時の勤務もあった。

 過酷な勤務の中でも、平安さんは感染者のケアや看取りに力を尽くした。感染者が亡くなる時には、家族と窓越しでの面会を手助けした。家族からは「良い最期を迎えられた」という感謝の言葉があったという。

 平安さんの応援は終わったが、施設の“コロナとの闘い”は続いている。「自分たちが抜けた後も応援が来ているかどうか分からない」と吐露する。

 応援した施設では、市町村の介入がもっと必要なことなど、さまざまな課題が見えたという平安さん。介護従事者は感染対策の教育を受けておらず、県の医療従事者向けワクチン優先接種の対象でもないため、感染に不安を感じている人が多いとも指摘する。介護従事者の人材確保に向け、県の早急な対策を訴えた。

(中村万里子)