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猫の捕獲かご…殺処分ではありません 愛護団体が進めるTNR事業とは?<ニュースのつぼ>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
TNR事業の捕穫用かごを設置するにゃごねっとメンバーと警戒しながら近付く猫=1日夕、名護市内

 【名護】名護市で野良猫を増やさないために、避妊去勢手術をして元の場所に返す「TNR事業」が展開されている。動物愛護団体などが市と連携し展開している。一方で捨て猫や放し飼いも後を絶たず、野良猫の虐待事案も起きている。専門家は猫を飼う際の大原則である「完全室内飼育」を再認識し、最後まで責任を持って飼うよう求めている。

 「おいでおいで」。今月1日、猫の保護活動を行う名護市民のネットワーク「にゃごねっと」が、TNRの一環として猫の捕穫活動を市内で行った。メンバーが持ち寄ったかごの中に餌を仕掛け、猫が多い場所に設置する。繁華街にいた1匹は警戒しながら近づき、間もなく捕穫に至った。「殺処分するための捕獲と勘違いして『かわいそう』と放してしまう人もいるんです」とメンバー。

■「さくら猫」

 この日は市民が連れてきた3匹を含めて10匹を捕獲。翌日、動物病院で手術を受けて元の場所に戻された。耳の端をV字にカットした「さくら猫」が、避妊去勢済みの証しだ。

 名護市では動物愛護団体「琉球わんにゃんゆいまーる」が2年前からTNRを実施し、今年5月には「にゃごねっと」も活動を始めた。各団体が市に実施計画書を月単位で提出し、市が公益財団法人どうぶつ基金の「さくらねこ無料不妊手術事業」の行政枠に申請。同基金から市に支給される無料チケットを団体に分配する。対象区域には、捕獲前に団体が周知のチラシを配布する。5月は2団体で計77匹に手術を施した。

■2~3年の寿命

 猫の繁殖力は強い。1匹の雌から1年で20匹、3年で2千匹以上まで増えるとされる。野良猫の寿命は2~3年。TNRの継続で数の抑制が期待されるが、捨て猫や放し飼いも後を絶たないのが現状だ。

 にゃごねっとの鈴木雅子代表は「特に異動シーズンは捨て猫が増える。飼われていた猫は他の猫の縄張りに入れない。人に慣れているので、警戒心を持たずに虐待されることもある」と説明する。

 市内では今年、首や背中を切られた猫や脚を折られた猫、頭部を痛めつけられたとみられる猫の死骸も発見されている。

 鈴木さんは「猫も大切な命。危険にさらされている命が身近に多数いることを知ってほしい」と訴える。

 一方で市には、猫に関する苦情が週1件ペースで寄せられる。最も多いのはふん尿の苦情だ。「外で餌をあげると野良猫が集まり、周囲でふん尿をするようになる。中には耐えかねて『農薬をまいていいか』と問い合わせてきた近隣住民もいる」と担当者。

 猫への餌やりは違法ではない。市は近隣にビラを配って庭への猫の侵入防止法を伝えたり、餌をあげる場合はふんも始末するなど、マナー順守を呼び掛けている。TNRについて、市は「いずれは行政区を主体に進めたい」との考えだ。

■希少種への影響

 やんばるの希少種保護に携わるNPO法人どうぶつたちの病院沖縄の金城道男副理事長によると、名護市内で繁殖した猫が、近郊の希少種を脅かしている可能性があるという。「名護岳や源河でノグチゲラが確認されているが、なかなか定着しない。猫は10キロ程度は移動するので、山に入ってさまざまな生物を補食していることも一因に考えられる。やんばるの森が遠いから、希少種に影響しない訳ではない」と指摘する。

 金城さんはTNRを成功させ猫の数を減らすには、捨て猫をなくし捕獲率を上げるなど課題も多いことに触れた上で、「飼い猫を感染症や事故から守るためにも完全室内飼育という大原則を再認識することが必要だ。責任を持って最後まで飼ってほしい」と強調した。
 (岩切美穂)