渡具知、岸本氏 一騎打ちへ 辺野古新基地が最大争点 来年の名護市長選


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 2022年2月の任期満了に伴う名護市長選を巡り、渡具知武豊市長(59)は15日の市議会本会議で、2期目に向けて出馬することを表明した。政権与党の全面支援を受けるとみられる渡具知氏に対し、市政奪還を目指す「オール沖縄」勢力は岸本洋平市議(48)の擁立を固めており、一騎打ちとなる見通しだ。最大の争点である辺野古新基地建設について「反対」の姿勢を取る岸本氏に対し、渡具知氏は賛否を明確にせず、振興策を打ち出す選挙戦略を継続する見通しだ。保守系関係者が「失策がない」と現職再選に自信を見せる一方で、市内には“辺野古隠し”への批判の声もある。

■「基地マネー」恩恵

 県内の保守系市長でつくる「チーム沖縄」は、2月の浦添市長選、4月のうるま市長選で連勝した。勢いづく自民党内には、名護市長選でも「政権与党との良好な関係に基づく、地域の発展や暮らしやすさ」が争点になるとの見方が強い。

 渡具知氏は1期目の公約で「給食費無料」「保育料無料」を打ち出し、いずれも政府の後ろ盾を得て実現した。こうした実績を踏まえ、2期目出馬は「既定路線」(自民党県連幹部)としてまとまった。

 国策の新基地建設工事を“黙認”する渡具知氏に、政権与党の信頼は厚い。市長就任後の2018年11月に岩屋毅防衛相(当時)と面会し、前市政では交付されなかった米軍再編交付金118億円に代わる予算措置を要求。頻繁に上京するなど、政府とのパイプを最大限に活用して施策の裏付けを獲得していくスタンスは、市内保守層から「市の発展に尽力している」と手堅い支持を集めている。

 渡具知氏の実績に、新基地建設に反対する勢力は危機感を隠さない。前回市長選で稲嶺進氏を支えた関係者は、「言い方は悪いが『薬物』と一緒だ。市民はだいぶ慣らされてしまった」とため息をつく。

 再編交付金を活用した保育料や給食費無償化の「基地関連マネー」の恩恵は市民に浸透。「基地に反対する市民も、渡具知市長には反対しにくいのではないか」(革新系運動員)と危惧する。

■くすぶる不満

 一方、辺野古新基地建設に言及しない渡具知氏の姿勢に、不満もくすぶる。

 新基地建設の現場となる辺野古区、久志区、豊原区の3区が求める「個別補償」などについて渡具知氏は静観を続けており、一部市民から「どこまで区民のために汗をかくつもりなのか見えにくい。辺野古移設支持を明言せず、本心が読みづらい」と語る。

 対抗馬の岸本氏は、元市長の岸本建男氏(故人)の長男。いまだに根強い人気のある「岸本ブランド」に、一定の保守票が流れる可能性もある。

 渡具知氏を支持する男性は「建男氏に世話になった人は多く、浮動票が洋平氏に流れる可能性は大いにある」と警戒する。一方で、自民県連関係者は「建男氏は辺野古を容認した。洋平氏が辺野古反対を強調するなら、そこは当然指摘していくことになる」とけん制する。

 名護市長選は新基地建設の行方を左右するだけでなく、22年秋に控える県知事選を占う最大の前哨戦ともなる。

 岸本氏は、正式な出馬表明に向けて準備を進めている。経済振興・生活支援を武器とする渡具知氏に対抗するため、「名護の将来ビジョンなど市民目線の政策を考えなければならない」(オール沖縄関係者)と、新基地建設反対に偏重しない政策を打ち出す構えだ。

(喜屋武研伍、大嶺雅俊、岩切美穂)