2020年6月、首相の諮問機関である地方制度調査会は、人口減少が深刻化し、高齢者人口がピークを迎える2040年ごろの社会の変容を見据え、地方行政体制の在り方について安倍晋三首相(当時)に答申した。
答申は、地方議会の課題を指摘。議員の構成が住民の構成と比較して、「女性や60歳未満の割合が極めて低い状況が続いている」「女性議員がいない議会や議員の平均年齢が高い議会では、無投票当選となる割合が高くなる傾向も見られる」と説明した。
「とりわけ、人口の半分を占める女性の議員の割合が低いことは課題」と明記し課題解消に向け、女性をはじめとする多様な層の住民が参画できる環境を整備する「議会における多様性の確保」を盛り込んだ。
同審議会の副会長を務めた大山礼子駒沢大学教授(政治制度論)は地方議会の未来について、「二つの暗雲が立ち込めている」と説明する。一つは議会不信、もう一つは議員のなり手不足の問題だ。
大山氏は住民から議会が「自分たちの代表だと思ってもらえない最大の理由」は、議員の構成が偏っていることにあると分析する。
日本は国会から町村議会に至るまで、「圧倒的な男社会」。地方議会の9割は男性で、人口規模の小さい自治体ほど女性議員の割合が低く、無投票が増える傾向もある。性別や年齢構成に多様性を欠くことで、住民が議会や政治を身近に感じられない。議会不信が募ると、議員のなり手不足に拍車がかかる、という悪循環に陥るという。その上で、女性が意思決定の場にいないことで「政策がゆがむ」と、大山氏は厳しく指摘する。
現行の男性中心の議会では、女性や若者のニーズに対応する政策の充実は後回しにされがちになる。琉球新報が県内市町村を対象に実施した調査でも、防災計画や災害時の避難所の設置といった災害対策に、女性や災害弱者の視点を反映する体制が整っていないことが明らかになった。
経済協力開発機構(OECD)が公表した17年の国内総生産(GDP)に占める教育の公的支出の割合で、日本は2・9%と38カ国中37位。大山氏は「教育費の家計負担は重く、少子化に歯止めがかからない原因の一つに、子育て支援策の不足があることは疑いない」と語る。
一方、女性議員らによる変化も生まれている。20年度の税制改正は、婚姻歴があるひとり親に向けた「寡婦(寡夫)控除」を「ひとり親控除」に見直し、未婚親を対象に加えた。NPOの訴えなどを受けて自民党の女性議員らが動いたことで、死別や離婚によるひとり親家庭だけに適用されてきた措置が未婚のひとり親家庭にもようやく適用されるようになった。
18年に「政治分野の男女共同参画推進法」が成立してから3年。女性の政治参画を後押しするには女性候補者への支援が不可欠だが、特に保守系の男性議員の間で、女性候補者優遇は「女性にげたを履かせる」という批判が根強いとという。
だが、必要なのは「男性のげたを脱がせること」と大山氏は強調する。「圧倒的な男社会」で意思決定の場に女性がほとんどいない状況で、男性たちは「自らの内に無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)が潜んでいることに気付く機会もない」
多様な人材が政治に参画できる環境を整えるには、政党が女性候補者の割合に数値目標を設定し、積極的に人材発掘や育成に取り組むこと。議会を働きやすい場所に変えていくこと。そのために「男性議員の意識改革が急務」と指摘する。
有権者の意識も重要だ。大山氏は従来の「典型的議員像」とは異なる多様な人材が活躍できるよう、「有権者も長い目で政治家を育てていく見識が求められている」と述べた。
(座波幸代)
世界的にも遅れている日本の「ジェンダー平等」。玉城県政は女性が活躍できる社会の実現を掲げ、県庁内に「女性力・平和推進課」を設置しましたが、政治や行政分野で「女性の力」を発揮する環境が整わない現状があります。女性が直面する「壁」を検証します。報道へのご意見やご感想のメールはseijibu@ryukyushimpo.co.jpまで。ファクスは098(865)5174