【記者解説】基地問題「成果」を並べた首相に違和感 民間犠牲への陳謝聴かれず


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沖縄全戦没者追悼式に寄せられた菅義偉首相のビデオメッセージ=23日、糸満市摩文仁の平和祈念公園

 新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言下で開催された23日の沖縄全戦没者追悼式の平和宣言で、玉城デニー知事は米軍普天間飛行場の移設に伴う辺野古新基地建設を巡り、政府に断念を迫る文言は盛り込まなかった。沖縄の日本復帰50年に向けた政府要請では、在日米軍専用施設の全国比について「50%以下を目指す」と打ち出したが、それと比較すると平和宣言は抽象的な表現にとどまった感が否めない。

 玉城知事が新基地断念を求める表現を避けたのは2年連続だ。知事は英語やしまくとぅばを交え、自身の平和観を語った。しかし、沖縄戦の惨苦や、厳しい戦後復興の道のりについての言及は歴代知事と比較しても少ない。与党県議から「沖縄戦の教訓が盛り込まれず、総花的で、響かない」との指摘も上がった。

 一方、ビデオメッセージを寄せた菅義偉首相は「沖縄のため、具体的な成果を上げるべく、全力を尽くしてきた」と官房長官時代から基地問題に携わってきたことを強調。西普天間住宅地区の医療拠点整備、名護東道路建設などを持ち出し「私が先頭に立って沖縄振興を進める」とも述べた。

 基地問題で自らの主張を前のめりで語る菅氏の姿勢は、玉城知事と対極的だった。ただ、平和を希求する場で菅氏が並べた「成果」の言葉は、犠牲者を慰霊する県民にとって「異質」に映った。

 前年の安倍晋三前首相のあいさつにはなかったが、菅氏は沖縄戦による20万人の犠牲について「罪もない民間人を含め」との文言を追加した。

 根こそぎ動員で、法的根拠のないまま、戦闘に巻き込まれた沖縄住民の全てに当然、罪はない。菅氏から、国が引き起こした戦争で多くの命が失われたことへの陳謝は聞かれなかった。沖縄戦への理解不足とともに、国の戦争責任を薄める姿勢も見え隠れした。 (池田哲平)