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ジェンダー意識、社会で壁に 平等も公平も必要な時代<「女性力」の現実 政治と行政の今>26


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
「より権限を持ったレベルでジェンダー意識を持っているかどうかが、女性を生かせる社会になるための重要な点だと思う」と語る喜納育江氏=西原町の琉球大

 北極星を意味する「ポラリス」と名付けた冊子。文部科学省の補助を活用し、琉球大ジェンダー協働推進室が発行する女性研究者のロールモデル集だ。米国で活躍する卒業生や、各学部の女性教授が大学の将来を担う同僚へエールを送る。

 自治体の女性管理職登用が進まない中、伝統的に男性中心的な「大学」という職場ではどうか。琉球大ジェンダー協働推進室長の喜納育江教授は、ジェンダー平等の実現には「トップダウンで、意思決定レベルに女性を置くことが大事だ」と語る。

 琉大は2010年に男女共同参画室を開設した。きっかけは大学の法人化後、男女共同参画の遅れを文科省に指摘されたからだ。大学の評価が下がれば予算の配分も削られる。「当時は九州の他の大学の周回遅れだった」と話す。

 12年度から3年間、文科省の補助で出産や育児、介護などの間も女性研究者が仕事と家庭を両立できるよう補助員を付けて研究や実験をサポートする体制を整え、女性研究者の増加に取り組んだ。15年にはジェンダー協働推進室に組織改編し、学内のダイバーシティ実現に力を入れる。

 女性研究者の在籍数は12年度の118人から20年度は172人に、女性の在籍比率も13.9%から19.8%に増えた。

 学長主導で女性教授限定の公募を実施し、伸びなかった女性教授比率も12年度の8.7%から21年度は9%に微増した。喜納氏は「これだけ時間をかけても自然増では無理がある。在職率アップだけでなく上位職の増加が目標」と語る。

 女性限定の公募や支援に男性から「逆差別」「なぜ女性だけ」との声もあった。「ジェンダー平等なら男性も支援すべき」「女性比率2割を超えるうちの学部に女性限定公募は不要」などの意見もあった。

 喜納氏はこれらを「ジェンダー意識がある男性が陥りがちなミス。日本が絶対的にジェンダー平等が遅れていることを見ずに、目先で男女平等と言いがち」と分析する。忍耐強く理解を広げ、付属病院、工学部で初の女性教授が誕生した。

 ただ、女性活躍を推進するのは容易ではない。女性を採用しない時の決まり文句は「女性を採用したかったが、やっぱり男性の方が優秀だった」だ。

 喜納氏は「選ぶ側が男性だけだとアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に気付かない。男性は男性しか見ない。女性や外国人がそこに入る資格があっても見ない、探さない」と語る。現在、採用の際のアンコンシャス・バイアスのチェック表を作成中だ。

 多様性は「つくるもの」という意識がないと実現しないと断言する。「数合わせと批判する人もいるが、女性が1人いるだけで全体のダイナミズムが変わる。障がいのある人が1人いるだけで建物の構造を変えようとなる。平等(equality)だけでなく、公正、公平(equity)が必要な時代だ」。平等な機会だけでなく、必要な支援を提供することで多様な才能が発揮される組織が実現すると説明する。

 大学も変わろうと多様性の実現に取り組む。だが、気になるのは学生たちが社会に出て直面する壁だ。「大学で感じた男女平等的なリベラルな空気が社会に出た途端、『なんか違う』と悩む女子学生は多い」。就職活動で理不尽に扱われ悔し涙を流す女子学生もいたが、「男らしさ」の価値観に疑問を持つ男子学生も増え、多様化している。

 「学生の間に培ったジェンダー意識を『退化』させていく社会の『からくり』があることも、大学は教育として教える場だと思う」と喜納氏は言う。

 性別役割分業や差別、偏見―。「権威のある人や目上の人たちのやり方や判断を常に正しいと思う必要はない。『正しいジェンダー理解』を教えることで、それと矛盾する社会の現実や壁にぶつかった時、どこに軸足を置いて自分で判断するかができるはず。それが批判的思考能力であり、必要とされている力だ」

 社会の価値観はなかなか変わらない。でも、新しい考え方を教育で取り入れチャレンジしないと、いつまでも変わらない。そう考えている。

 (座波幸代)
 


 

 世界的にも遅れている日本の「ジェンダー平等」。玉城県政は女性が活躍できる社会の実現を掲げ、県庁内に「女性力・平和推進課」を設置しましたが、政治や行政分野で「女性の力」を発揮する環境が整わない現状があります。女性が直面する「壁」を検証します。報道へのご意見やご感想のメールは、右記QRコードを読み取るか、seijibu@ryukyushimpo.co.jpまで。ファクスは098(865)5174