昨年10月27日に沖縄初の芥川賞作家・大城立裕さんが亡くなってから約8カ月。大城さんの作品について、さまざまな角度から研究が続く。芥川賞受賞作の小説「カクテル・パーティー」の作品名や原稿の変更点について、県立泊高校の国語科教諭の金城睦(あつし)さんがまとめた論文も、大城さんの作品を読み深めていく視点として期待される。
金城さんは論文で生原稿の表紙にあり、線で消去されていたタイトル案とみられる「祝祭と仮面」「海の虚像」について「テーマを示すものから、場所を示す『カクテル・パーティー』としたことで、小説のテーマや内容を直接表現することなく、読後に題名とテーマの結びつきについて考えを深める効果を読者に与えている」と指摘。「『カクテル・パーティー』は『仮面の論理』や『偽りの安定』を象徴的に示す場所として描かれている」などと分析した。原稿の随所にある修正箇所についても考察した。
沖縄文学に詳しい元琉球大教授の仲程昌徳さんは、生原稿から出版物になる過程の変遷を比較する手法について「地味で研究論文としてはあまり出ていないと思うが、基本的で大切な作業。たくさんの書き直しや見え消しなどが見えるところに、生原稿の面白さがある」と語った。
元琉球大教授で作家・詩人の大城貞俊さんは、金城さんの論文について「原稿の変遷の過程で作者の意図や作品への思いを探ろうとしている。沖縄の作家に対する研究としては少なかったのではないか。作者の葛藤など目に見えなかったものを見える形で浮かび上がらせてくれる。有意義な研究だと思う」と指摘する。
英文学を専門とする元名桜大学長の瀬名波栄喜さんは、1983年ごろから琉球大学図書館長を務めた際、「テクスト・クリティシズム」(テキスト批評)という文学研究に取り組むために不可欠な基礎資料として、大城立裕さんを含め沖縄出身の主な作家が書いた作品の生原稿を収集した。「カクテル・パーティー」の原稿を所蔵する日本近代文学館とも、琉大図書館に原稿を移せないか交渉を試みたが、実現しなかったという。
瀬名波さんは原稿の変遷を考察する研究について「大きな意義がある。今やっておかないといけない」と指摘し、小説に加えて組踊や沖縄芝居の戯曲も同様の研究を深める必要性を強調した。
(古堅一樹)