[日曜の風・香山リカ氏]いまこそ気付きの時 不平等


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 何とも皮肉な話だが、ここにきて「日本で沖縄と東京だけ」という状況が生まれた。今月12日に東京都に対し「緊急事態宣言」が発出されることになり、それが8月22日まで続くのは日本で沖縄県と東京都だけ、ということになるのだ。ニュースを見ていると都内で飲食や旅行に携わる人が「勘弁してほしい」「店が持たない」などと取材に答えているが、沖縄の人たちは「私たちだって同じだ」と言いたいだろう。

 これは昨年からずっと思うのだが、新型コロナは世界が初めて見るウイルスだ。予防や治療も分からないことだらけで、どんな専門家も戸惑うのは間違いない。一般市民も不自由な生活を強いられるのもいたし方ない。

 ただ、この日本にも沖縄の徳田安春医師をはじめ、これまで海外で防疫について学んできた経験などから、早い段階から「検査と隔離の徹底を」と正しい対策を提案してきた専門家もいたのだ。

 しかし、政府やそこで招集された会議はそれに耳を貸さず、特に検査の拡充は遅れに遅れてしまった。その“ツケ”が出ている今、「また緊急事態です。皆さん自粛してください」と言われても、とても素直に従う気になれないのは当然だ。

 しかも、もうすぐオリンピックが開催される。東京には華やかさや友好ムードのかけらもない中、交通規制だけが早くも始まり、誰もが苦い顔で従わせられている。

 沖縄の人たちは優しく、「東京人よ、分かったか。私たちは長いこと、こうして政府の言うなりにさせられてきたのだ」などとは言わない。私にも沖縄の知人から、「東京の感染者増に驚いてます。気を付けて」という温かいメールが届いた。

 でも、今は沖縄が「東京が大変だって? 沖縄はずっと大変なんだ」と言ってもいいんじゃないか、と思う。それはコロナに関しても基地問題に関しても、ということだ。そこで東京もようやく、沖縄が背負わされてきた不平等にも気付けるのではないか、と思う。もしそれでも気付けなければ、東京には、いや日本には未来がないといえるだろう。

(香山リカ、精神科医・立教大教授)