リオ五輪の苦い経験を糧に 選手鼓舞する声掛けを 重量挙げコーチ・平良真理さん<五輪支える熱情>2


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部員にフォームの指導をする平良真理さん(左)=8日、嘉手納高の練習場

 忘れられない記憶がある。2016年8月のリオ五輪。コーチとして重量挙げ日本代表に帯同していた平良真理さん(45)=嘉手納高教諭、シドニー五輪女子53キロ級代表=は、メダル獲得争いに身を投じる男子62キロ級の糸数陽一(豊見城高―日大出、警視庁)を舞台脇から頼もしく見詰めていた。5回目まで一度も失敗無し。平良さんらコーチ陣3人には確信があった。「今日の陽一なら3位を狙える」

 最終試技。暫定で3位に入れる重量を提案しようとしたが、プラットホームから降りてきた糸数が真っ先に口を開いた。「169キロでお願いします」。想定を下回る数字だったが、糸数自身が持つ日本記録を1キロ上回る重量だった。意思を尊重し、糸数は見事に成功。同競技で県勢過去最高の4位入賞を果たしたが、3位にはトータルで3キロ及ばなかった。

 あれから5年。平良さんは「反省しかない。選手も協会もメダルを取るために出場している。(メダルを狙える)重量をやらせればよかった」と後悔の念は拭えない。糸数自身も「挑戦できない心の弱さがあった」と振り返っており、東京五輪では女子チームのコーチを務める平良さんは「陽一の悔しさも知っている。同じ境遇になったら、選手が挑戦するモチベーションを持てる声掛けをしたい」と、苦い経験をコーチとしての成長の糧にする。

 今回は学生の頃から師弟関係にあり、初出場となる男子73キロ級の宮本昌典(沖縄工高―東京国際大出、同大職)の試合にも帯同する予定だ。糸数、宮本とも、実力的に重量挙げで県勢初のメダルを獲得する可能性は十分にある。

 普段は学校で指導する身として「先輩がメダルを取れば、学生も『自分たちもやれる』と思える」と、2人が後進に刺激を与えてくれることを期待する。ただ、五輪という大舞台を選手としても経験したからこそ、平常心の大切さは身に染みて分かっている。「メダル獲得にとらわれず、1本ずつしっかり挙げていくことが大事」。熱い心と冷静さを持ちながら、選手たちに寄り添うつもりだ。
 (長嶺真輝)