元県内1位、35歳の一大決心 テニスストリンガー・徳村正貴さん<五輪支える熱情>6


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
マシンを使い、ラケットにストリングを張る徳村正貴さん=17日、浦添市勢理客のラケット・スポーツショップ・ミュー

 テニス選手は繊細だ。ラケットでボールを捉える感触はストリング(糸、ガット)の種類や張り具合で左右され、選手によって好みが違う。その調整は特殊な技術を要し、五輪ではストリンガーと呼ばれる専門職が会場に配置される。テニス教室やショップなどを運営するミュー(浦添市)の徳村正貴さん(48)=那覇市=は、ヨネックスの公式ストリンギングチームの一員として五輪に参加する。

 テニスを始めたのは高校時代。友人の誘いで入部し、のめり込んだ。沖縄国際大進学後も続け、実力が開花。4年生で県内ランキング1位に登り詰めた。それでも、プロは夢のまた夢。卒業後は県内の電気機器販売会社に就職した。

 仕事がメーンで、テニスは週末に楽しむ生活になった。しかし、競技への情熱は消えなかった。35歳の時、一大決心で現在の会社に転職。テニスコーチとして働き始めた。

 2017年、全国中学生大会の県内開催時、ヨネックスから声を掛けられ、ストリンガーを極める道へ。18年、19年には男子日本代表の沖縄合宿でトップ選手を担当した。19年は東レパンパシフィックに参加し、優勝した大坂なおみのラケットも張り替えた。

 ストリングは素材や太さ、形状などさまざま。選手によって好みのテンション(張力)も異なる。千差万別の注文に忠実に応えるのが腕の見せどころだ。

 大会中は専用ブースに詰めてオーダーに備える。調整したラケットが試合で使われている様子を見ることはない。選手と会うのもまれな、裏方中の裏方だ。

 夏の大会はストリングの消耗が速い。「1試合ごとではなく試合中にオーダーがあるかもしれない。1時間で3本張ってくれ、と言われることもあるだろう」と、スピード勝負を想定する。「選手のオーダーを再現することに徹底する。一本一本、丁寧に張り上げていくだけだ」と語る言葉に、裏方としての矜持(きょうじ)がにじんだ。

(稲福政俊)