自然への感謝 池田卓さん / いのちの場所 三角みづ紀さん〈沖縄・奄美 世界自然遺産登録特集〉


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自然への感謝 池田卓さん(西表島出身シンガーソングライター)

 僕の生まれ育った船浮は「陸の孤島」「離島の離島」と呼ばれ、西表島内にありながら他の集落と陸路が繋(つな)がっていません。船でしか渡ることのできない素朴な集落に42人が暮らし、船浮小中学校には3人の児童生徒が通っています。大自然の豊かさと厳しさの中で、たくましく育ち、巣立っていく子どもたち。潮の満ち引き、月の満ち欠けと会話しながら、自然の恵みへの感謝が根底にある島の人々の暮らしは、今も昔も変わることはありません。

 この夏、僕たちが暮らす西表島が世界自然遺産に登録されました。島の大自然が世界に認められたことはとても喜ばしいことではありますが、今以上に観光客が訪れ、島の秩序が乱れるのではないかと懸念する島の人も少なくありません。いま抱えている問題、これから想定されるさまざまな課題を、組織で解決していこうと地元住民、町役場、自然保護団体、有識者が一丸となり、「西表財団」の設立準備にも励んでいます。「世界自然遺産に登録されてよかった」とみんなに思ってもらえるように、長く険しい道になるかもしれませんが、世界の皆さんと協力して歩んでいきたいと思います。


 いけだ・すぐる 1979年生まれ。シンガーソングライター。2000年「島の人よ」でデビュー。これまで12枚のCDをリリース。2020年、著書「不便が残してくれたもの」を刊行。竹富町観光大使。

 

いのちの場所 三角みづ紀さん(鹿児島市出身詩人)

わたしがふたたび生まれたのは、
ひかりにあふれた 島だった

森も 海も すべて息をして
いきものの声に満ちている島

わたしをふたたび育ててくれたのは、
父と 母と 先生と 島のひとたちだった

屈託のない笑顔で接している
その肌はつよい日射しを投影して

三味線の音程をあわせる
まるくなった石に触れる
しずかな砂浜まで歩いて
波が模様を描くのを見る

記憶は風になって
時間をこえて
遠い地まで
いまも届けてくれる

享受して綴った文字がたくさんある
わたしもまた、島にかえしたいとおもう

島に教わったことがたくさんあって
忘れずに守ることでかえしたいとおもう


 みすみ・みづき 1981年鹿児島市生まれ。東京造形大学在学中に現代詩手帖賞、2005年第1詩集「オウバアキル」で中原中也賞、06年刊「カナシヤル」で南日本文学賞と歴程新鋭賞を受賞。14年「隣人のいない部屋」で萩原朔太郎賞を当時最年少の33歳で受賞した。12歳で詩を書き始めた。膠原(こうげん)病の治療のため大学を休学し、両親のいた奄美大島で病気療養中に詩作に没頭したのが、大きな転機となった。詩集「カナシヤル」は、島言葉の「かな(愛(いと)しい人)」からとった。札幌市在住。エッセーや音楽など幅広い表現で発信している。