【深掘り】「不適切な時期」に辺野古のサンゴ移植を強行した国の狙いは


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サンゴ類の移植作業が始まった米軍キャンプ・シュワブ沿岸=29日午後5時半ごろ、名護市

 名護市辺野古の新基地建設で、沖縄防衛局は29日、県が示した許可条件に反して移植作業を強行した。同局は地盤改良に向けた設計変更を県に申請しているが、県は8月後半にも不承認とする見通しで、移植作業を急いだ背景に、不承認の判断が下る前に既成事実を積み重ねる狙いがある。 

 県は30日以降、防衛局側に抗議、移植を中断するよう行政指導する構えだが、防衛局が従う保証はない。県首脳は「信頼関係」が失われたと批判を強めるものの、県側は国の強行をあらためさせる具体的な手段を検討する必要に迫られた。

 移植を急いだ理由について、防衛省幹部は海水温を重視したと強調する。気象庁によると、28日の沖縄周辺海域の水温は30度を超えていない。この幹部は「水温はこれから高くなる。ギリギリだ」との見方を示す。国側はわずか1日の海水温だけで、作業ができると判断した形だ。

 今回移植が許可されたサンゴは、護岸の建設予定地に生息しており、国側はサンゴの移植を急ぎ、護岸工事を加速させたい構えだ。一部護岸は6月に業者との契約も済んでいる。

 移植を急ぐ国の姿勢は、移植先でのサンゴの適切な生育など、本来の目的だった自然環境保護の観点は欠如している。県の認識では5、6月ごろが産卵の可能性が高い時期で、7月から秋ごろまでは高水温が続く。関係者は「夏場に移植すること自体が不適切で、この日は気温が低かったからいいという話ではない」と批判した。

 環境保全を度外視して工事を優先する政府の姿勢に県幹部は「県が付けた条件を一顧だにせず強行した。けしからん。今の政権の体質を表している」と非難した。別の幹部は、防衛局への行政指導について「すぐだろう。待つ必要はない」と述べた。

 今後、サンゴ移植や護岸工事が進むのを止める手だてを検討する。設計変更を不承認とした後には、サンゴの移植許可も取り消す予定だ。ただ、設計変更を巡っても再び法廷闘争に発展する公算が大きい。

 一方、政府は、再び裁判闘争となっても、既存の埋め立て承認に基づいてできる部分から工事を進める姿勢だ。政府高官は今回移植に着手したサンゴについて「できるだけ早くやった方が、全体の工事が進む」と話した。

 玉城県政内には、こうした政府の強硬姿勢が選挙などで政府や自民党にとって不利に働くとの見方もある。県は知事権限を活用した法廷闘争と、県内外の世論喚起に向けた政治闘争の両面で政府に圧力を掛け、新基地建設の断念を迫る構えだ。 

(明真南斗、知念征尚)