【識者談話】最低賃金アップ、大人の貧困対策に期待 企業負担の行政支援を(春田吉備彦・沖縄大教授)


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 最低賃金引き上げの法政策上の含意には、(1)企業は生産性を高める(2)労働者はAIやセルフレジロボットに雇用を奪われないように労働生産性を高める(3)非正規労働者の待遇改善(大人の貧困問題)対策―という三つの目的がある。人口減少の中、消費者でもある労働者への労働分配率を上げていくことは、企業の売り上げを持続的に増やすことにもなる。間接的には、若者の貧困問題・子どもの貧困問題の改善に資することにもなる。

 沖縄で最賃引き上げの波及効果として最も期待できるのは、大人の貧困対策だ。非正規労働の安易な活用に一定の歯止めがかかる。日本の労働市場では、非正規労働活用にかかわる正当化事由が要求される「入口規制」はないため、非正規労働者は、安価で柔軟な労働力として利用される。労働に見合った処遇も受けていない。

 一方、コロナ不況で、全国より失業率の高い沖縄で最低賃金を引き上げることには異論もある。最賃引き上げは、労使双方(社会全体)の生産性向上を目的とする社会政策立法であるなら、政府は経営基盤の脆弱(ぜいじゃく)な企業への緩和策を用意するなど、政労使の3者で取り組む必要がある。最低賃金制度の見直しは、企業だけに負担を押し付けるのではない。行政は、経営基盤の脆弱な企業に補助金などの活用を用意する必要がある。

 労働契約法18条は5年以上の有期労働活用につき無期契約への転換権を「出口規制」として保障している。同法9条は差別を禁止している。例えば、非正規労働者に対して、(1)通勤費(2)業務関係手当(3)住宅手当・家族手当(4)精皆勤手当等を支給しないことは違法とされる。県外では、非正規労働者の待遇が一定改善されているが、沖縄の動きは鈍い。最賃引き上げを契機に、有期労働者にかかわる議論が盛り上がることも期待したい。

 (労働法)