「続けることで結果に」 ミャンマーの伝統格闘技「ラウェイ」に挑む 県出身ファイターの映画が公開


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「ラウェイ」に翻弄される日本人を追ったドキュメンタリー映画「迷子になった拳」の舞台あいさつのため桜坂劇場を訪れた、ラウェイファイターの渡慶次幸平さん=7月31日、那覇市牧志の桜坂劇場

 「地上で一番過酷」と称されるミャンマーの伝統的格闘技「ラウェイ」に翻弄(ほんろう)される日本人を追ったドキュメンタリー映画「迷子になった拳」(今田哲史監督)の上映が那覇市の桜坂劇場で始まっている。作品に登場する沖縄出身のラウェイファイター渡慶次幸平さん(33)=東京都=が7月31日、舞台あいさつのため桜坂劇場を訪れ、取材に「何事にも失敗はつきものだ。続けることで結果は出るし、応援してくれる人も現れる」と挑戦する意義を語った。

 ラウェイはバンテージを巻いただけの拳を交わし合う競技。故意でなければ金的など、通常格闘技の禁じ手は反則に問われない。映画は危険と隣り合わせの格闘技に翻弄される選手や大会関係者を通じて、「人はなぜ戦うのか」という問いに挑戦している。

 渡慶次さんは「登場人物は、ラウェイという格闘技の中で迷子になっている。目標はあるが、明確ではない。そんな状況の中、私はラウェイを続け、今では生活できるまでになった」と説明した。

 撮影は4年かけて、次第にカメラが気にならなくなったという。言葉もだんだんと気を使わなくなり、自然体の渡慶次さんが撮られた。

 渡慶次さんは2017年に初めて、日本国内でラウェイの試合に挑んだ。それまでは総合格闘技の選手として競技に取り組んでいたが、家族を支えられる収入が得られず、コンビニエンスストアで働きながら生計を立てていた。

 ラウェイに挑戦し始めた時期は負けが続いた。それでも試合に出場し続けたのは、日本国内の格闘技では破格のファイトマネーが理由だった。「格闘技一本で生活を成り立たせたかった」。渡慶次さんは額を切り、鼻を折るなどのけがを負うも徐々に頭角を現し、18年にミャンマーの大会で75キロ級の王者となった。

 王者になった後、ヤンゴン郊外の小学校を訪問し学用品を贈った。この学校は壁がなく、床板が腐ったままだった。渡慶次さんの行動はミャンマー国内で話題となり、現地の人が寄付を集め校舎を建て直した。

 ミャンマーの子どもたちの教育環境に胸を痛めた渡慶次さんは、19年に現地で学校を建設するためのクラウドファンディングを実施した。「スポンサー料は家族に、ファイトマネーは全てミャンマーの恵まれない人のために使いたい」と話す。現在も日本国内やミャンマーの人々のために私財を投じて支援を続ける。「迷子だった自分は続けることを選んだ。新社会人や目標はあるが、うまくいっていない人に映画を見てほしい」と締めくくった。「迷子になった拳」は桜坂劇場で13日まで上映される。
 (名嘉一心)