【記者解説】国は自然保護を軽視し「スピード判断」 辺野古サンゴ移植


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 県のサンゴ移植許可撤回を無効化する農相の執行停止は、県が意見書を提出した翌日という異例の早期判断となった。早期判断の理由について、農相は、7月6日に県が敗訴したサンゴ類の移植を巡る最高裁判決を持ち出し「県の処分は防衛局の法的地位を侵害する」などと説明している。

真っ青な大浦湾に浮かぶ辺野古新基地建設のための作業船=7月30日午前11時ごろ、名護市

 だが、最高裁判決は県の主張を認める少数意見も付いた。県は海水温が上昇するこの期の移植で、サンゴの生残率低下は不可避だとして、移植の許可に条件を付けていたが、防衛局側が条件をほごにした経緯もあった。農相はこうした経緯を度外視し、所管官庁として本来重視すべき水産資源保護の観点を逸脱して政府内の「身内同士」の主張に沿う判断を下した。

 新基地建設を巡り、沖縄防衛局は執行停止を県の埋め立て承認取り消し(2015年)と撤回(18年)で申し立て、いずれも認められた。過去の事例では申し立てから執行停止まで2週間程度を要したが、今回は申し立てから3日後の「スピード判断」となった。

 ただ、執行停止で移植許可が復活しても、高水温期や台風期を避けるとした県の許可条件は存続している。沖縄周辺は8月上旬から中旬にかけて年で最も水温が上がる時期で、9月ごろまでは台風の襲来もある。14年の那覇空港滑走路増設に伴うサンゴ移植では、移植後に台風の影響とみられる群体減少などが確認されている。

 今回の農相の判断で、沖縄防衛局にサンゴ移植の許可が復活することになるが、県は抗告訴訟なども視野に対抗措置をとる検討に入った。審査請求の裁決などで、県は自然保護のために付した許可条件の正当性を訴えていく構えだ。(塚崎昇平)