【識者談話】サンゴ移植許可めぐる手続き、漁業者ら民間の意見軽視 熊本一規氏(明治学院大名誉教授・漁業法)


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熊本 一規氏

 サンゴの特別採捕許可を巡る一連の争点は、高水温期や台風襲来時など移植時期や環境条件に集中しているが、最も問題なのは移植によって何らかの損失をこうむる地元漁業者など「民」の意見がないがしろにされている点だ。

 水産庁の特別採捕許可に関する参考資料には、許可の手続きや申請を行う際には、事業者が事前に関係担当部局と連絡を密にして指導を受けること、さらに「必要に応じてあらかじめ地元漁業者等関係者に周知して了承を得る等の手続きをとる必要がある」と明記されている。「地元漁業者」とは漁業組合などの組織や権者だけでなく、そこで漁業を営む全ての人が対象となる。これまでの県と国のやり取りを見る限りでは、最も影響を受けるはずの漁業関係者など民間の意見が抜け落ち、行政と行政の空中戦状態だと言わざるを得ない。

 山口県では上関原発の建設計画があり、中国電力が県から特別採捕許可に相当する「一般海域占用許可」を受け、建設予定地海域でボーリング調査を実施しようとしているが、漁業者の同意が得られないため実現していない。要するに事業者は、行政(公)と利害関係者(民)の双方の了承と許可を得た上で初めて事業に着手できるのだ。

 サンゴは水産資源の根幹であり、不適切な条件で移植すれば他の生物にも影響を及ぼすことは明白だ。自然環境の保全と漁業者権限の観点から、移植の強行は認められるべきではない。(漁業法)