【識者談話】沖縄の人たちに勇気 歴史の力で未来開く 又吉栄喜氏(芥川賞作家)


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
又吉栄喜氏(芥川賞作家)

 喜友名諒選手、金メダルおめでとう。予選、準決勝、決勝すべての演武を見た。喜友名選手がテレビから飛び出してきそうな迫力と臨場感を味わった。琉球王国時代の武士のように感じた。武器は不要であり精神が武器であると伝えているようで、目指している高みに挑んでいる目だった。

 私は30代の頃、空手道場に通った。その時に感じたのは、空手には想像できないほどの忍耐力と探究心が必要だということだ。奥が深く、どこまでも究めなければならない。

 空手は、琉球舞踊にも取り入れられていると言われる。大地を足でしっかりと踏み、遠くかなたを見る。人間の根源的なものを表現していると思う。獅子舞、伝統芸能など県内各地にある地域行事で体を使って披露するものすべてに空手の基本があると思う。

 喜友名選手は動きの緩急や剛柔の対比があり、集中して体がぶれない。文学の場合も共通するが、美しい形は少しの無駄もない。一点に全エネルギーが集中していると感じた。

 喜友名選手の突きや蹴りには、社会にある悪を一喝して縮みこませ、撃退するような気迫がこもっていた。自然破壊や基地、差別など沖縄を覆う厚い雲を、巨大な台風のように一気に吹き飛ばし、沖縄本来の青い空を広げてくれたようにも感じた。

 いろんな不条理の中にある沖縄の人たちに勇気を与え、豊かな世界を見せてくれた。それは、空手の中に琉球王国時代から連綿と受け継がれ、凝縮された歴史の力がこもっているからではないか。琉球王国時代からの粋が凝縮され、沖縄の未来を切り開くものにつながっているようだ。

 五大陸に約1億3千万人の空手愛好家がいると聞く。今回だけでなく、今後も五輪競技として登場することがあると信じている。

 今回の喜友名選手の偉業は、沖縄の政治、経済、社会、文化を強化する力があると思う。喜友名選手が師匠の背中を見て精進したように、今後は喜友名選手の背中を見て育つ選手が続々と出てくると思う。未来の子どもたちへ大きなメッセージを残した。沖縄の人たちにとり、金メダルが身近になった。空手に限らず、いろんな分野で子どもたちが羽ばたく効力を発揮するだろう。

 沖縄の人は引っ込み思案と言われるが、喜友名選手のように日々、自分の道にいそしんでほしいと切に願う。