[日曜の風・香山リカ氏]目をそらさないで 五輪後の現実


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 沖縄でも東京でも、いや全国で新型コロナウイルス感染症の拡大が止まらない。毎日のように「過去最多」という文字を見て、不安な気持ちが高まる一方という人もいるだろう。

 この「不安」は、私たちの生活や健康にとって大敵だ。「これからどうなるのか。心配で仕方ない」と思い詰めるだけで、実際に体調に問題が出てくることもある。もちろん、前向きな気持ちで仕事や家事に取り組む気にもならない。

 おそらく国は、「オリンピックで熱戦が繰り広げられれば、国民の不安も消え、またコロナにも立ち向かえるはず」と見込んだのだろう。確かにこの2週間、テレビをつければ一流のアスリートの競い合いが目に飛び込み、日本のメダルラッシュに拍手をしたくなった。コロナを忘れて明るい気持ちになれた人も多かったに違いない。

 しかし、それはあくまで一時的なことだ。テレビを消せば、緊急事態宣言が出ている現実は変わらず、医療崩壊がすぐそこに迫っている。オリンピックの華やかな世界とのギャップが、消えていたはずの不安を一層高めてしまう。

 現実の過酷さがある程度を超えれば、「ひとときの現実逃避」だけでは不安は消えない。やはりつらくてもしっかり現実を見つめ、覚悟を決めて徹底的な対策を講じていくしかない。残念ながら、為政者にはその覚悟が見えない。

 オリンピックは今日で終わり。明日からはしっかり現実に向き合おう。“敵”が見えれば、漠然とした不安も収まり、「いま自分にできることは何か」も見えてくるはずだ。

 このコロナという“敵”は、「そのうちなんとかなるさ」では退散してくれないことは分かってきた。沖縄、東京、北海道、「ウチの地域だけは心配ない」と言えるところはない。

 だからこそ、お互いへの思いやりを持ちなら、頑張っていけるはず。大丈夫、みんなで一緒に心配や不安を分け合い、出口を目指して進んでいこう。そして、リーダーたちにはこう言いたい。「現実から目をそらさないで。真剣に取り組む覚悟を見せて」

(香山リカ、精神科医・立教大教授)